公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした

Side エマ

目を覚ますと、外は明るくて晴天のようだ。
すぐ起き上がる気にならず、横になったまま思いを馳せる。


「・・どうしたら・・いいのかな・・」


どうしたってレナード公爵が思考から離れない。

私は恵麻で、だけどエマで。

詩音といた世界とは全くの異世界に来て、突然皇室に婚約破棄され、その直後に出逢ったレナード公爵の存在が私を甘く溶かしてゆく。

そう、明らかに甘い。
言動のひとつひとつから、ストレートに想いが伝わってくる。

他人事のようで、これは明らかに私の身の上に起きている現実だ。
そう、恵麻だろうがエマだろうが関係なく『私』の身の上に。


「詩音・・・・私・・」


このままじゃ、私・・。
昨晩も心がざわついて、泣いてしまった。


コンコンコン。

「エマ嬢? 起きているだろうか」

「はい・・いま、開けます」

レナード公爵の呼びかけに、手ぐしで髪を整えてからドアを開ける。

「おはよう。今朝は一緒に朝食をとらないか?」

そう言って、私に微笑んでくれる。

きゅん、と胸がうずいた。
もう、意識し始めてしまったのだろう。

「はい、ご一緒します。身だしなみを整えたら、お声がけしますね」

「ゆっくりでいい。待っているよ」

一度ドアが閉まる。
足音が執務室に向かった。

ふぅ。
たったこれだけなのに、ドキドキしている。


きっと、もう、止められない。


レナード公爵と入れ替わりに入ってきた侍女に、髪を整えてもらう。
今日は買い物をして調理もする予定だから、コンパクトに纏めてほしいとリクエストした。

「エマ様は、本当にお料理が好きなのですね。いつか私も、エマ様とご一緒したいです。家族に作ってあげられたら・・」

「そうなのね、それならばクッキーなど喜ばれそう」

「はい。でも今日はレナード様がご一緒のようなので、私の番は先になりそうです」

「え・・?」

では、と侍女がニコニコしながら部屋を出ていった。




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