公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
レナード公爵が休暇を取ったのは、私のため・・?

戸惑いつつ、執務室のドアをノックする。

『はい』

「エマです。お待たせいたしました」

勝手にドアを開けることはできないので、レナード公爵の指示を待つ。

「さぁ、入って。一緒に食べよう」

「えっ? あ、はい、失礼いたします」

招かれて中に入ると、運び込まれたばかりなのか、湯気の立つ食事がセットされていた。

「いま届いたばかりだよ。温かいうちに食べようか」

『どうぞ』と椅子を引かれ、座らないわけにもいかず静かに座った。

「あの、公爵様・・今日お休みを取られたのは・・」

「あー・・うん・・。もしエマ嬢が良ければ、今日一日、一緒にいられたら・・と、思って・・」

「えっ?」

「まずは・・食べないか? 冷めないうちに」

視線をそらしたレナード公爵の頬が赤いように見える。
それが伝染したのか、なんだか私までドキドキしてきた。

お互いに無言で食べ進めていたものの、先にレナード公爵がナイフとフォークをテーブルに置く。

「従者たちと今日も調理するというのを聞いて、正直、羨ましかったんだ。それで、せめて近くで見たいと思い、午後は家で執務したいとカイルに言ったんだが・・」

「え・・羨ましい・・というのは・・」

「私は、厨房に立つ祖母と話をするのがとても好きだった。作るのを見るのも、時々手伝わせてもらうのも好きだったんだ。だから、懐かしさと同時に羨ましくなって・・。
後で、散歩がてら街に出よう。調理に使う食材の買い物もその時に」

遠慮するのが当然なのだと、頭にありつつも。
レナード公爵が思い出を懐かしんでいるのを、私が分断してしまうのもどうかと考えて。

「はい、ご一緒いたします」

そう答えて、私は微笑んだ。




< 37 / 45 >

この作品をシェア

pagetop