公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
レナード公爵の視線は、チョコレートを見たままだ。

それで、良かった。
もし、こちらを見られでもしたら・・。

「エマ嬢、さっきから手が止まっているよ。こちらのチョコレートは溶けたようだから、次は何をしたらいい?」

私に視線を向けたレナード公爵は、驚いて息を飲んだ。

きっと、私の目元が真っ赤だったから。

「どうした・・。従者たちとは楽しく調理をしたと聞いている。私では・・ダメだっただろうか・・」

「いえ、そうでは・・そうではないのです・・ただ・・」

「ただ?」

「混乱して・・いるのです。お慕いする気持ちを、どうしたらいいか分からなくて・・。
私は心に決めた相手と死別し、よく分からないままに皇室から婚約破棄され、それなのに、こんなふうにレナード様を想ってしまう・・・・」

ここ何日かで感じていた思いが、抑えきれず溢れる。

はらはらと流れる涙をレナード公爵が指ですくい、控えている料理長を呼んだ。

「悪いが、続きを頼んでいいだろうか。ブラウニーという菓子は作れるか?」

「はい、喜んでお引き受けします。ブラウニーを作ろうとされていたんですね・・レナード様のためにも、心を込めて作ります」

「ブラウニーに何か意味があるということだろうか?」

料理長が私を見る。
きっと、知っているのだ。
チョコレートを使ったお菓子の意味合いを。

私は小さく頷き、料理長が代弁してくれる。

「実は、チョコレートを使うお菓子には、『あなたと同じ気持ち』という含みがあるのですよ。ですから、エマ様がブラウニーを選ばれたのは・・・・」

抱える想いに混乱しているのは間違いなくて。
けれど、想う気持ちも消せるものじゃない。

ただそれを伝えたかった。




< 40 / 45 >

この作品をシェア

pagetop