公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
レナード公爵に少し休んだほうがいいと言われ、私は公爵邸の庭にいた。
私の好きなピンクの花がいくつも咲いていて、とても癒される。

けれど、さっきの『失敗』にため息ばかり出る。
どうして、あんなことを言ってしまったんだろう。

『混乱して・・いるのです。お慕いする気持ちを、どうしたらいいか分からなくて・・。
私は心に決めた相手と死別し、よく分からないままに皇室から婚約破棄され、それなのに、こんなふうにレナード様を想ってしまう・・・・』

いっそ、今すぐにでも帰ったほうがいいのではないか。

自分が混乱しているのはともかく、レナード公爵や従者たちまで巻き込んではいけない。
これ以上、迷惑をかけたくない。

みんなに・・嫌われたくない。


「エマ嬢」


後ろからレナード公爵の声がして、肩がビクッと震える。

「庭園で一緒にブラウニーを食べよう。紅茶も運ばせてあるんだ」

「えっ」

「料理長が教えてくれたエマ嬢の気持ちが嬉しくて、呆れられつつも、ずっと料理長の後ろで出来上がりを待っていた。
さぁ、食べながらもう少し話をしよう。明日には夫人のもとに帰ってしまうのだから、時間が惜しくてね」

「レナード様・・」

お皿に取り分け、自ら紅茶を淹れてくれる。
その綺麗な所作を、ずっと見ていた。

「エマ嬢」

「はい」

「これまで何があったのかは、あえて聞かないことにするよ。いま大事なのは、エマ嬢が私に心を寄せ始めてくれている・・それだけだ。
少しの時間でも一緒に過ごしたい。目の前にいるあなたのことを見ていたい」

レナード公爵のまっすぐな視線に、私の心はきゅうっと切なく鳴いた。




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