公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
従者たちに見送られ、レナード様と馬車に乗り込んだ。

国境までは30分ほど。
きっとすぐに着いてしまうけれど、何を話したらいいのか・・。

「エマ嬢、隣に座ってもいいだろうか?」

向かい合わせに座っていたレナード公爵が隣に移ってくる。

近い・・。

「・・怖がらせるようなことは絶対にしないから、少しだけ目を閉じてもらえるかな」

「えっ、はい」

私は、言われたとおりに目を閉じた。

「んっ・・」

うなじのあたりがくすぐったくて、思わず声が漏れる。
私の首のすぐ後ろで、レナード公爵が何かしているようだ。

「よし、できた。目を開けて」

ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前でレナード公爵が微笑んでいる。
でも、心なしか目線が少し下にあるような・・。

「あっ・・レナード様、これって・・」

胸元で光る、ミッドナイトブルーの石のネックレス。

「そう、エマ嬢がお守りにと望んでくれたものだ。宝石商が気を利かせて、さっき詰所に届けてくれたんだよ。『お急ぎでしょうから』ってね」

「そうだったんですね・・。とても綺麗です。大切にします」

「実は・・・・揃いのデザインで、宝石商がブレスレットを作ってくれて。私のものは小さい石なのだが」

レナード公爵が小さな包みから出したブレスレットは、同じ銀色のチェーンで何箇所かに鉱石が配置されたシンプルなデザインだ。

「レナード様には私がおつけしますね。レナード様をお守りくださるよう、気持ちを込めて・・」

私の手元を、レナード公爵はずっと見ている。
つけ終わって顔を上げれば、すぐ目の前にレナード公爵の顔があるはず。

口づけができそうなほどに、近い距離で。




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