公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「次は、いつ会えるだろうか」

頭上からレナード公爵の声がする。

「元々のお約束だとガレットを食べていただく日でしたね。4日後・・でしょうか。
でもレナード様のお邸にいたので全然準備ができていなくて、延期して頂かなくてはと考えていました。
ブレスレット・・つけ終わりました」

手を離して顔を上げると、やはり触れてしまいそうな距離にレナード公爵の顔があった。

きゅっとやわらかく抱きしめられ、『4日後に様子を見に行ってもいいか?』と耳元で声がする。

ダメだなんて言えるはずがない。
私は、レナード公爵の腕の中で顔を見上げた。

自分でも分かっていた。
まるで、口づけしてほしいという表情で見上げているだろう・・と。

私を見下ろすレナード公爵は、視線は外さないものの明らかに戸惑っている。

「・・困ったな・・」

レナード公爵はフッと頬を緩めた。

「エマ嬢のハニーブラウンの瞳を見ていると、吸い寄せられてしまうんだ。心も、身体も・・」

私だって、同じなのだ。
ミッドナイトブルーの瞳が距離を縮めてくるのを、ただ見つめることしかできない。

それでも、唇が触れそうになった気配を感じて私は目を閉じた。


ちゅっ。


ちゅっ。


ちゅっ。
ちゅっ。


「・・んっ・・」


「離れがたい、な・・」


ちゅっ。ちゅ。


もう、溶けてしまいそうなほどの、甘い甘い口づけ。


そのままレナード公爵の腕の中にとどまった。
おそらく、あと、ほんの数分・・。


「・・着いてしまったな」


腕の力が緩み、私はもう一度レナード公爵を見上げた。

「少しの間離れることになるけれど、必ずあなたを迎えに行くから」

「・・はい」

「一緒に降りよう。スカラ夫人に謝罪しなければ」

先に降りたレナード公爵の広い背中を見つめながら、私を待つ伯母様のもとへと向かう。

『必ず・・』

詩音と同じセリフを、レナード公爵は口にした。




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