公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
馬車に揺られながら、改めて状況を振り返る。

どうやら私の『魂』のようなものが、時空を超えて『エマ・ベリーフィールド伯爵令嬢』の身体に入り込んでしまったようだ。

私は事故に遭って、もうあの身体で生きることはできないとして、組み合わせ的にエマの『魂』はどうなったのだろう。

「エマ様、お身体の具合はいかがですか? その・・毒の影響は、もう無いのですか?」

護衛のルイスがおもむろに口を開く。
え? 毒の影響・・?

「あの時・・。伯爵夫人は、もう助からないと医師に言われた後もずっと礼拝堂に籠っていました。何も望まない・・・・とにかく生きていてくれればいいと、ずっと祈りを捧げていたのですよ」

「とにかく、生きていれば・・?」

「はい。でも体内に入った毒性が強く、一度はエマ様の意識が遠のいてしまいまして。
誰もが諦めかけた瞬間、エマ様の身体がやわらかく光り、そのすぐ後に目を覚まされたのです」

「そう・・・・」

きっとその時に入れ替わり、身体と魂が完全に馴染んだところから私の思考が機能し始めたのね・・。

損傷の激しかった私の身体と、魂レベルが低下してしまったエマの魂が天に召され、一時的に毒の影響を受けたものの、身体の機能に問題のないエマの身体と私の魂がこの世界に残されたということか・・。

だとすると、私には生き残らなければならなかった理由があるのだろう。

それは、いったい何?

例えば・・。

エマの意思を継いで、民衆との交流を更に深めるとか。
ベリーフィールド伯爵を貶めた、ロルバーン伯爵を懲らしめるとか。
エマに毒を持ったヤツに、毒を盛り返してやるとか・・。

いや、毒を盛り返したら殺人未遂か殺人で捕まるだろうから、それはマズイ・・。

「エマ様、少し休みましょう。表情が強張っていらっしゃいます。お疲れだからですよ」

ルイスが馬車を停めようとする。

「大丈夫よ、ルイス。これから先、何をしなければならないか考えていただけ」

「そうでしたか。差し支えなければ、私にもぜひ教えてください。できることがあれば、何でもさせていただきますので」

「ありがとう。心強いわ」

よーし。
経緯はともかく、エマと伯爵の無念を晴らすためにも頑張ればいいのよね!




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