公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
その後、数日馬車に揺られながら少しずつエマの記憶を辿り、だいたいのことが分かってきた頃、ようやく国境の街に着く。

郊外にあるひときわ大きな邸の前で、馬車が停まった。

「エマ、よく来たわね。首を長くして待っていたのよ」

「お久しぶりです、伯母様。お会いできて嬉しいですわ」

人間関係や言葉遣い、そして立ち居振る舞いも、エマの記憶を引き出して馴染ませた。

「さぁさぁ、すぐにお茶にしましょう。疲れたでしょう?」

私を邸に招き入れた伯母様は、自ら紅茶を入れてくれた。

「エマも18歳になったのよね・・・・。本当なら、皇太子妃に・・・・」

そうか、私は18歳なのね。
中身は29歳だけれど、身体は10歳くらい若返ったんだ。

邸のガラス窓に写った姿を見ると、背丈は恵麻の時とさほど変わらず、瞳の色と髪の毛はハニーブラウンで、太陽を浴びてキラキラと輝いていた。

目を引くほどの華やかさは無いものの、年相応の可愛らしさがある。

「いいのです、伯母様。大好きなお菓子作りや、領地民とお茶もできないような窮屈な生活に、未来はありませんわ」

私はそう言って、ニッコリと微笑んだ。

「まぁ、エマったら。ふふ、そうね。あのまま皇太子妃になっていたら、エマの明るさや優しさが消えてしまったかもしれない・・」

「はい、だから良かったのですよ・・。
伯母様、早速ですが邸の厨房を私にお貸しいただけますでしょうか?」

「あら、何か食べたいものがあるなら料理長に頼むわよ」

「いえ、久しぶりにお菓子作りがしたいのです。この邸では、どういったお菓子が好まれますか? どうせなら伯母様始め、従者みんなにも食べてもらえたら嬉しいのです」

そうねぇ、と伯母様は背後の執事に視線を向けると、ふむ・・と執事が考えを巡らせる。 

「奥様、あのお菓子はどうでしょう。ご友人のお店でとても人気だったという・・」

「ああ、フィナンシェね。そうね・・彼女がいなくなって、もう食べることもできなくなってしまったものね・・」

え、いなくなった?

「伯母様、お友達がいなくなった・・というのは、何か困ったことでもあったのですか?」

エマならば大人しく聞いていたかもしれないけれど、恵麻としては気になってしまい、ついその話に首を突っ込んでしまった。




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