公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
午後1時30分。
いまから取り掛かれば、3時のおやつに間に合いそうだ。

ディナーの仕込みをする料理人たちの、邪魔をしてはならない。

私は、厨房の下働きをしている従者にフィナンシェの材料を伝え、調理台の上に全て揃えてもらった。

その後、調理機器の場所を教えてもらってから、ルイスと共にオーブンの使い方を聞く。
どうやら、ベリーフィールド伯爵家にあるオーブンと同じ種類の設備のようだ。

多分、大丈夫。

トランクからレシピ帳を取り出し、調理台の上に開いた。
量りやボウル、へらを使ってレシピ通りに計量していく。

まずは焦がしバターだ。
焦がし過ぎないように注意して作り・・・・冷めるのを待つ。

次は粉以外の材料を別のボウルに入れ、湯煎しながらゆっくりと混ぜた後にふるった粉を入れる。

「ルイス、オーブンを200度に温めてもらえるかしら」

「はい、エマ様」

焦がしバターが冷めたところでボウルに混ぜて、生地作りは完了。
焼き型にバターを薄く塗ってから、生地をスプーンで流し入れる。

「エマ様、200度に調整できました」

「じゃあ、この天板をオーブンにお願い。ひとまず12分で様子を見ましょう」

オーブンの中に天板を入れてもらい、蓋を閉じた。

通常ならひと息ついてお茶をいただくのだが、仕上がりが気になって、食い入るように焼けていく様子を確認する。

少しずつ色づいてきて、バターのいい香りがしてくる。
10分を過ぎたし、いよいよ完成間近だ。

「んー、表面もいい感じに割れてきた。そうね、あと・・1分で取り出しましょう」

綺麗な焼き色がつくのを待って、ルイスに取り出しを頼む。
調理台に置かれた焼き立てのフィナンシェを見ながら、その香りを目一杯吸い込んだ。

「あーーー、今日もいい香り♡」

冷めるのを待つことなく、ひとつだけ焼き型から取り出す。
それを3等分に割り、ルイスと厨房の従者に手渡した。




< 8 / 45 >

この作品をシェア

pagetop