公爵の想い人は、時空を越えてやってきた隣国のパティシエールでした
「ええっ、私がエマ様のお菓子を頂いていいのですか?」

「えっ、僕にも・・・・?」

「もちろんよ。ふたりともお菓子作りを手伝ったのだから、責任を持って味見してちょうだい。美味しくなければ、遠慮なく美味しくないと言ってほしいの」

私にそう言われて困り顔のふたりは、フィナンシェを恐る恐る口に入れた後、パッと目を見開いた。

「うわっ、うわわわ、美味しい!」

「エマ様、バターの風味がたまらないです! ロルバーン伯爵は、こんなに美味しいお菓子を作られる方を否定されたのですか? あり得ない・・」

フィナンシェの焼ける匂いが漂ったのか、厨房での私たちの声が聞こえたのか、廊下がザワザワとし始める。

厨房の時計を見ると、あと15分ほどで3時だ。
試食を兼ねて、お庭でみんなに振舞ってはどうだろう。

「いい匂いがすると思ったら、エマのフィナンシェだったのね」

伯母様が、ニコニコと微笑みながら厨房に入ってきた。

「伯母様、もし良ければなのですが、お天気もいいですし庭でお茶会などいかがですか? 従者の分も焼いたので、みんなで」

「もちろんよ。レスター、皆に声をかけてちょうだい」

「承知しました。すぐに準備をさせます」

伯母様の後ろに控えていた執事が、すぐに従者たちに指示を出していた。

私は焼き型からフィナンシェを取り出し、ルイスが用意してくれたトレイに載せていく。

40個近く焼いたので、3つのトレイに分けた。
私がひとつ、ルイスがひとつ、厨房の従者がひとつ持ち、庭へ出る。

執事の指示によりテーブルセットが整えられ、すぐにでも茶会が始められそうだ。

「さぁ伯母様、どうぞ召し上がってください。みなさんも遠慮なく」

この邸には、伯母様と従者全員を合わせても20名ほどしかいない。

充分に行き渡るはずだけれど、みんなの口に合うかどうかが気がかりで、全員の表情をじっと見渡していた。




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