【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「俺が誘っているように思うのか?」
射貫くように強い翡翠色の瞳が向けられる。けれど、彼からは不思議と一切の下心を感じない。
「思いません」
ハッキリと答えると、エドガーはほんの少しだけやわらかい表情になった。
「今日この場であなたを抱くことはしない。だが、俺も健全な男だし、今後は誘うことになるだろう。出来れば歩み寄ってもらえたら助かるが、無理強いしたりはしない。嫌がる女性を抱くのは好きではない」
「は、はい?」
早口でまくしたてる様に言うエドガーに困惑する。
「安心してくれ、あなたが俺の妻になったらの話だ」
エドガーの表情から感情を読み取ることは不可能だった。
「ええ、そうですね。そのときはどうぞおてやわらかに」
先程の言葉はエドガーの冗談なのだととらえた。
(そういうお冗談も言うのね……。意外だわ)
「ふふっ……」
生真面目な顔のエドガーにアイリーンは思わず噴き出した。我慢をしようとしても、肩が震えてしまう。こうやって自然に笑みをこぼしたのはずいぶん久しぶりな気がする。
エドガーはアイリーンを穏やかに見つめていた。まるで愛おしい人を見つめるみたいに優しい眼差しを向けられて、胸が熱くなる。
「えっと……エドガー様?」
「ああ、すまない。あなたの可憐な笑みについ目を奪われてしまっていた」
本気なのか冗談なのか計り知ることができない。
「エドガー様、あなたのように素敵な男性からそんなことを言われたら、わたし以外の女性は誤解してしまいますよ?」
「誤解などさせない。そもそも、俺はあなた以外の女性にこんなことは言わない」
「……なんですって?」
アイリーンは信じられないというように目をしばたく。けれど、エドガーはいたって平然としている。彼の言葉に胸の高鳴りが激しくなり、どうやっても抑えられない。
エドガーと一緒にいるとどうしてこんな風に胸が熱くなったりドキドキしてしまうのか、初心なアイリーンにはそれがなにかどうしてもわからなかった。
舞踏会は夜更けまで続くものの、アイリーンとエドガーは早々に切り上げることにした。
部屋を出て大きな壁掛けのある広々とした廊下を歩き玄関へと向かう。
アイリーンはエドガーの強い申し出もあり、エドガー専属の馬車で屋敷まで送ってもらうことになった。
廊下を歩くエドガーの一歩後ろを歩くアイリーンは、エドガーが左足を引きずっていることに気が付いた。
(やっぱり怪我をしているのかしら……?)
廊下には賑やかな大広間から出て談笑をする人々があちこちにいる。大広間での一件でアイリーンとエドガーには好奇の視線が向けられた。
エドガーは胸を張り颯爽と歩く。けれど、左足は震え、悲鳴をあげているように見えた。アイリーンはエドガーの横顔を伺うように見つめた。エドガーはぐっと奥歯を噛みしめていた。
『おいおい、なんだあれ。みっともない奴だな』
大広間で跪いた彼がバランスを崩したとき、心無い声が飛んだ。エドガーは表情を変えなかったけれど、彼の瞳に陰が差したのをアイリーンは見逃さなかった。なぜか彼の目をもう曇らせたくないという思いに駆られ、アイリーンは周りの人間に聞かせるように「エドガー様!」と声を張り上げた。
ぴたりとその場に足を止めたエドガーは、どうしたのかと振り返る。
「どうした?」
「申し訳ありません。慣れないヒールを履いたせいで靴づれをしてしまいました。腕を貸して頂けませんか?」
「……ああ、すまない」
彼が差し出した左腕にそっと手を掛ける。すぐそばにくると彼の上背に驚く。しっかりした体格だとは思っていたものの、触れた彼の腕は逞しく筋肉質だった。
歩き出すと、エドガーは周りの人に聞こえぬように押し殺した声で言った。
射貫くように強い翡翠色の瞳が向けられる。けれど、彼からは不思議と一切の下心を感じない。
「思いません」
ハッキリと答えると、エドガーはほんの少しだけやわらかい表情になった。
「今日この場であなたを抱くことはしない。だが、俺も健全な男だし、今後は誘うことになるだろう。出来れば歩み寄ってもらえたら助かるが、無理強いしたりはしない。嫌がる女性を抱くのは好きではない」
「は、はい?」
早口でまくしたてる様に言うエドガーに困惑する。
「安心してくれ、あなたが俺の妻になったらの話だ」
エドガーの表情から感情を読み取ることは不可能だった。
「ええ、そうですね。そのときはどうぞおてやわらかに」
先程の言葉はエドガーの冗談なのだととらえた。
(そういうお冗談も言うのね……。意外だわ)
「ふふっ……」
生真面目な顔のエドガーにアイリーンは思わず噴き出した。我慢をしようとしても、肩が震えてしまう。こうやって自然に笑みをこぼしたのはずいぶん久しぶりな気がする。
エドガーはアイリーンを穏やかに見つめていた。まるで愛おしい人を見つめるみたいに優しい眼差しを向けられて、胸が熱くなる。
「えっと……エドガー様?」
「ああ、すまない。あなたの可憐な笑みについ目を奪われてしまっていた」
本気なのか冗談なのか計り知ることができない。
「エドガー様、あなたのように素敵な男性からそんなことを言われたら、わたし以外の女性は誤解してしまいますよ?」
「誤解などさせない。そもそも、俺はあなた以外の女性にこんなことは言わない」
「……なんですって?」
アイリーンは信じられないというように目をしばたく。けれど、エドガーはいたって平然としている。彼の言葉に胸の高鳴りが激しくなり、どうやっても抑えられない。
エドガーと一緒にいるとどうしてこんな風に胸が熱くなったりドキドキしてしまうのか、初心なアイリーンにはそれがなにかどうしてもわからなかった。
舞踏会は夜更けまで続くものの、アイリーンとエドガーは早々に切り上げることにした。
部屋を出て大きな壁掛けのある広々とした廊下を歩き玄関へと向かう。
アイリーンはエドガーの強い申し出もあり、エドガー専属の馬車で屋敷まで送ってもらうことになった。
廊下を歩くエドガーの一歩後ろを歩くアイリーンは、エドガーが左足を引きずっていることに気が付いた。
(やっぱり怪我をしているのかしら……?)
廊下には賑やかな大広間から出て談笑をする人々があちこちにいる。大広間での一件でアイリーンとエドガーには好奇の視線が向けられた。
エドガーは胸を張り颯爽と歩く。けれど、左足は震え、悲鳴をあげているように見えた。アイリーンはエドガーの横顔を伺うように見つめた。エドガーはぐっと奥歯を噛みしめていた。
『おいおい、なんだあれ。みっともない奴だな』
大広間で跪いた彼がバランスを崩したとき、心無い声が飛んだ。エドガーは表情を変えなかったけれど、彼の瞳に陰が差したのをアイリーンは見逃さなかった。なぜか彼の目をもう曇らせたくないという思いに駆られ、アイリーンは周りの人間に聞かせるように「エドガー様!」と声を張り上げた。
ぴたりとその場に足を止めたエドガーは、どうしたのかと振り返る。
「どうした?」
「申し訳ありません。慣れないヒールを履いたせいで靴づれをしてしまいました。腕を貸して頂けませんか?」
「……ああ、すまない」
彼が差し出した左腕にそっと手を掛ける。すぐそばにくると彼の上背に驚く。しっかりした体格だとは思っていたものの、触れた彼の腕は逞しく筋肉質だった。
歩き出すと、エドガーは周りの人に聞こえぬように押し殺した声で言った。