【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「どうぞ、こちらがアイリーン様専用のお部屋となっております」
通されたのは南側の角部屋だった。
室内はきちんと整理整頓されていて埃ひとつ落ちていない。広々とした室内にはベルベッド張りの椅子と木の机があった。新調したと思われる三面鏡台まである。部屋の奥には午睡用に使えそうな長椅子まである。
続き部屋を開けるとそこは寝室になっている。一人で眠るには広すぎる寝台が部屋の真ん中に置かれている。
アイリーンは深緑色のカーテンのかかる長い一対の窓の方へ歩いていった。カーテンを開くと、夕日に照らされた息を飲むほど美しい敷地が一望できた。
「サンドリッチ家はすごいのね。財政難の我が家とはまるで違うわ」
驚いてばかりのアイリーンにシーナはにっこりと微笑んだ。
「エドガー様は大変優秀な方なのです。お父様を若くして亡くされた後も、サンドリッチ領と民を守る為に尽力してくださっています。数年前に隣国が攻め入ろうとしたときも、エドガー様は矢面に立ち領民を守って下さりました」
辺境伯は国境に隣接する重要地域の防衛を担っている。そのため、国王から全権を与えられた特別な貴族だ。
「そのため領民は英雄であるエドガー様を神のように崇めています。エドガー様の武勇や才能を領民は皆誇らしく思っているのです。大人はもちろんのこと、子供たちにもとても人気があります」
シーナの言葉にアイリーンは感心したように頷いた。サンドリッチ領に入ったときの子供たちのエドガーを見つめる瞳は尊敬の色を湛えていた。シーナの言う通り、彼は領民からの絶対的な信頼を得ているようだ。
「ですが、エドガー様は人から誤解されやすい性格をしているのです。社交界でも変わり者だという噂が立ってしまわれているようですし……」
シーナは困ったように眉を寄せた。確かに社交界でエドガーの評価は高いとはいえない。口ではうまく説明できないものの、彼はどこか人を寄せ付けないオーラを放っているのだ。
「確かにそういう噂もあるみたいね。でも、変わり者というのは違う気がするわ。特別愛想が良くておしゃべりな方ではないけど、会話だって問題なくできるもの。周りが良く見えてらっしゃるから気遣いもできる方だし」
「そうなんです!」
アイリーンの言葉に、シーナは首がもげるかもと心配になるほど何度もうなずいた。
「さすがはアイリーン様! エドガー様のことをよく分かっていらっしゃいますね。エドガー様は才覚のある方なのですが、不器用なのです。領民はエドガー様のそういった性格を見抜いて好感を持っていますが、エドガー様を知らない方はやはり誤解されてしまうようでして」
「わたしもまだ完璧にエドガー様を分かったわけではないの。でも、これからたくさんエドガー様を知りたいと思っているわ」
クルムド家を出た後、馬車に揺られながらアイリーンは物思いにふけった。
貴族の娘として生まれた以上、政略結婚はあたり前で愛する人と結婚できるほうが稀だ。
時には二十歳以上年の離れた男性に嫁がされることも多々ある。一方、エドガーは年も六つしか離れていない。辺境伯爵として確固たる地位を得ているが、横暴でも傲慢でもない。
なにより、エドガーは一生結婚できないであろうと諦めて修道院へ入ることまで考えていたアイリーンへ結婚を申し出てくれたのだ。
アイリーンはエドガーを大切にしようと心に誓った。そして、彼だけでなくエドガーが大切にしているサンドリッチ領やそこで暮らす人々へ恩返しをしようと決めた。
通されたのは南側の角部屋だった。
室内はきちんと整理整頓されていて埃ひとつ落ちていない。広々とした室内にはベルベッド張りの椅子と木の机があった。新調したと思われる三面鏡台まである。部屋の奥には午睡用に使えそうな長椅子まである。
続き部屋を開けるとそこは寝室になっている。一人で眠るには広すぎる寝台が部屋の真ん中に置かれている。
アイリーンは深緑色のカーテンのかかる長い一対の窓の方へ歩いていった。カーテンを開くと、夕日に照らされた息を飲むほど美しい敷地が一望できた。
「サンドリッチ家はすごいのね。財政難の我が家とはまるで違うわ」
驚いてばかりのアイリーンにシーナはにっこりと微笑んだ。
「エドガー様は大変優秀な方なのです。お父様を若くして亡くされた後も、サンドリッチ領と民を守る為に尽力してくださっています。数年前に隣国が攻め入ろうとしたときも、エドガー様は矢面に立ち領民を守って下さりました」
辺境伯は国境に隣接する重要地域の防衛を担っている。そのため、国王から全権を与えられた特別な貴族だ。
「そのため領民は英雄であるエドガー様を神のように崇めています。エドガー様の武勇や才能を領民は皆誇らしく思っているのです。大人はもちろんのこと、子供たちにもとても人気があります」
シーナの言葉にアイリーンは感心したように頷いた。サンドリッチ領に入ったときの子供たちのエドガーを見つめる瞳は尊敬の色を湛えていた。シーナの言う通り、彼は領民からの絶対的な信頼を得ているようだ。
「ですが、エドガー様は人から誤解されやすい性格をしているのです。社交界でも変わり者だという噂が立ってしまわれているようですし……」
シーナは困ったように眉を寄せた。確かに社交界でエドガーの評価は高いとはいえない。口ではうまく説明できないものの、彼はどこか人を寄せ付けないオーラを放っているのだ。
「確かにそういう噂もあるみたいね。でも、変わり者というのは違う気がするわ。特別愛想が良くておしゃべりな方ではないけど、会話だって問題なくできるもの。周りが良く見えてらっしゃるから気遣いもできる方だし」
「そうなんです!」
アイリーンの言葉に、シーナは首がもげるかもと心配になるほど何度もうなずいた。
「さすがはアイリーン様! エドガー様のことをよく分かっていらっしゃいますね。エドガー様は才覚のある方なのですが、不器用なのです。領民はエドガー様のそういった性格を見抜いて好感を持っていますが、エドガー様を知らない方はやはり誤解されてしまうようでして」
「わたしもまだ完璧にエドガー様を分かったわけではないの。でも、これからたくさんエドガー様を知りたいと思っているわ」
クルムド家を出た後、馬車に揺られながらアイリーンは物思いにふけった。
貴族の娘として生まれた以上、政略結婚はあたり前で愛する人と結婚できるほうが稀だ。
時には二十歳以上年の離れた男性に嫁がされることも多々ある。一方、エドガーは年も六つしか離れていない。辺境伯爵として確固たる地位を得ているが、横暴でも傲慢でもない。
なにより、エドガーは一生結婚できないであろうと諦めて修道院へ入ることまで考えていたアイリーンへ結婚を申し出てくれたのだ。
アイリーンはエドガーを大切にしようと心に誓った。そして、彼だけでなくエドガーが大切にしているサンドリッチ領やそこで暮らす人々へ恩返しをしようと決めた。