【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
食事を終えたアイリーンは、シーナに手を借りて浴室に足を踏み入れた。
湯や着替えはすべてシーナが用意してくれた。足を伸ばしてもまだ余裕のある浴槽に肩まで浸かった。
 思えば怒涛の一日だった。体が温かくなり気が緩んだせいか、どっと疲れが押し寄せてきた。

(なんだか夢みたいだわ……)

 アイリーンは口元まで湯に沈めて膝を抱え込んだまま、物思いにふける。
 仮面舞踏会で辺境伯であるエドガーに求婚され、一週間後の今日馬車に乗ってアイリーンを迎えにやってきた。そして今、エドガーの屋敷の風呂に入って体を温めているのだ。
 まるでおとぎ話のような出来事が自身の身に起こるなどと考えてもいなかった。

(わたし、本当にエドガー様と結婚するのかしら……?)

 求婚されてこのお屋敷へやってきたけれど、エドガーから詳しい話はなかった。
けれど、急ぐ必要はないとアイリーンは考えていた。なぜなら、結婚すれば正式な夫婦となる。
 夫婦となったからには初夜は避けられない。
 純潔を守ってきたアイリーンだが、性に対する知識はそれなりにある。
 エドガーに押し倒されて愛を囁かれる場面を想像するだけで、叫び出してしまいそうになった。

(……本当にそんなことになったらどんなに幸せかしら。でも、心臓がもたないわね)

 アイリーンは心の中でぽつりと呟いた。


< 27 / 76 >

この作品をシェア

pagetop