【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「すごいわ。あんなに強いなんて……」
「エドガー様は歴代の騎士団の中でも、剣の扱いで右に出る者はおりません。乗馬もお上手で、馬に乗ったまま弓で矢をいることも得意なんです」
「そうなのね……」
感心して大きく頷く。
「怪我をなさった後、医師からは歩くことも難しいだろうと言われていたようです。ルシアン様に聞いたのですが、誰にも見られないように一人で歩行練習や筋力を増やす努力を続けてあそこまで回復なさったそうです」
「エドガー様は努力家なのね」
「はい!」
シーナは誇らしげに頷いた。
アイリーンは持ってきていたスケッチブックと鉛筆を取り出した。エドガーの勇ましい姿を絵におさめようとしたのだ。真剣な表情で絵を描くアイリーンを、シーナは穏やかな表情で見つめた。
「できたわ……」
完成した絵を覗き込んだシーナは胸の前でパチパチと拍手をした。
「す、すごいです! なんてお上手なんでしょう!」
「そんなことないわ」
「エドガー様の強さと躍動感が溢れてくるような素晴らしい絵です! エドガー様にプレゼントなさってはいかがですか?」
「……喜んでもらえるかしら?」
「もちろんです!」
シーナとそんなやり取りをしていると、どこからか視線を感じた。どうやら稽古の休憩に入ったようだ。アイリーンは慌ててスケッチブックをしまった。
「おい、あれは誰だ?」
「なんて美人なんだ……!」
それが騎士団の人々の視線だということに気付いて、アイリーンは小さく頭を下げた。
瞬間、場内からどっと歓声が上がる。騒ぎにエドガーが気付いた。アイリーンと眼が合った瞬間、エドガーは一瞬フリーズしたかのように固まった後、アイリーンの方へ歩を進めた。
アイリーンとシーナはすぐに観客席の階段を下りて、エドガーのすぐそばまで歩み寄った。
シーナは気を利かせたのか、少し離れた場所から二人を見守っていた。
「どうしてあなたがここへ?」
「実は、エドガー様の稽古姿を見たくてシーナにお願いしたのです。お邪魔でしたか?」
「そうではない。だが次からは、来るときには事前に言ってくれ。心の準備をしておきたい」
「心の準備、ですか?」
そういうものなのだろうかとアイリーンが首を傾げた瞬間、エドガーに続くようにぞろぞろと騎士団の面々が現れた。
皆アイリーンとエドガーのやりとりに興味津々といった様子だった。
「エドガー団長! この美しい女性はいったいどなたですか?」
先程エドガーと剣稽古をしていた屈強な男性が先陣を切って尋ねた。身長は二メートル近いだろう。見上げてしまうぐらい大きい。男性の顔にはたくさんの古傷があり、右の目にはアイリーンよりもさらに大きな傷があった。
エドガーはコホンッと咳払いをした後、「彼女は私の婚約者のアイリーンだ」と紹介した。
瞬間、地面が割れるかと思うほどの歓声が上がり団員は大騒ぎを始めた。飛び上がっている人もいれば、不思議な踊りを踊っている人もいる。けれど、皆一様にエドガーを祝福しているのだけは伝わってきた。それを照れ隠しなのか険しい表情で眺めているエドガーがおかしくて、アイリーンは思わず微笑んだ。
「アイリーン様は団長の婚約者様だったのですね! 俺はディルです。アイリーン様と俺の顔の傷、お揃いですね!」
ディルは鋭い目を細めてクシャクシャッとした子犬のような笑顔を浮かべて、声を弾ませた。彼の言葉に、あんなに騒がしかった場がシンッと静まり返る。
「エドガー様は歴代の騎士団の中でも、剣の扱いで右に出る者はおりません。乗馬もお上手で、馬に乗ったまま弓で矢をいることも得意なんです」
「そうなのね……」
感心して大きく頷く。
「怪我をなさった後、医師からは歩くことも難しいだろうと言われていたようです。ルシアン様に聞いたのですが、誰にも見られないように一人で歩行練習や筋力を増やす努力を続けてあそこまで回復なさったそうです」
「エドガー様は努力家なのね」
「はい!」
シーナは誇らしげに頷いた。
アイリーンは持ってきていたスケッチブックと鉛筆を取り出した。エドガーの勇ましい姿を絵におさめようとしたのだ。真剣な表情で絵を描くアイリーンを、シーナは穏やかな表情で見つめた。
「できたわ……」
完成した絵を覗き込んだシーナは胸の前でパチパチと拍手をした。
「す、すごいです! なんてお上手なんでしょう!」
「そんなことないわ」
「エドガー様の強さと躍動感が溢れてくるような素晴らしい絵です! エドガー様にプレゼントなさってはいかがですか?」
「……喜んでもらえるかしら?」
「もちろんです!」
シーナとそんなやり取りをしていると、どこからか視線を感じた。どうやら稽古の休憩に入ったようだ。アイリーンは慌ててスケッチブックをしまった。
「おい、あれは誰だ?」
「なんて美人なんだ……!」
それが騎士団の人々の視線だということに気付いて、アイリーンは小さく頭を下げた。
瞬間、場内からどっと歓声が上がる。騒ぎにエドガーが気付いた。アイリーンと眼が合った瞬間、エドガーは一瞬フリーズしたかのように固まった後、アイリーンの方へ歩を進めた。
アイリーンとシーナはすぐに観客席の階段を下りて、エドガーのすぐそばまで歩み寄った。
シーナは気を利かせたのか、少し離れた場所から二人を見守っていた。
「どうしてあなたがここへ?」
「実は、エドガー様の稽古姿を見たくてシーナにお願いしたのです。お邪魔でしたか?」
「そうではない。だが次からは、来るときには事前に言ってくれ。心の準備をしておきたい」
「心の準備、ですか?」
そういうものなのだろうかとアイリーンが首を傾げた瞬間、エドガーに続くようにぞろぞろと騎士団の面々が現れた。
皆アイリーンとエドガーのやりとりに興味津々といった様子だった。
「エドガー団長! この美しい女性はいったいどなたですか?」
先程エドガーと剣稽古をしていた屈強な男性が先陣を切って尋ねた。身長は二メートル近いだろう。見上げてしまうぐらい大きい。男性の顔にはたくさんの古傷があり、右の目にはアイリーンよりもさらに大きな傷があった。
エドガーはコホンッと咳払いをした後、「彼女は私の婚約者のアイリーンだ」と紹介した。
瞬間、地面が割れるかと思うほどの歓声が上がり団員は大騒ぎを始めた。飛び上がっている人もいれば、不思議な踊りを踊っている人もいる。けれど、皆一様にエドガーを祝福しているのだけは伝わってきた。それを照れ隠しなのか険しい表情で眺めているエドガーがおかしくて、アイリーンは思わず微笑んだ。
「アイリーン様は団長の婚約者様だったのですね! 俺はディルです。アイリーン様と俺の顔の傷、お揃いですね!」
ディルは鋭い目を細めてクシャクシャッとした子犬のような笑顔を浮かべて、声を弾ませた。彼の言葉に、あんなに騒がしかった場がシンッと静まり返る。