【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
その後、アイリーンは侍女のシーナに屋敷を案内してもらうことにした。豪邸だとは思っていたものの、このあとすぐにサンドリッチ辺境伯領という一大組織の規模の大きさをまるで理解していなかったことを思い知らされることになる。
屋敷の中にはクルムド子爵家では考えられないほど多くの働き手がいた。中には、時計を巻く人、家じゅうを回って蠟燭の灯りを調節し、交換する人もいるらしい。
アイリーンは出会う人すべてに挨拶をして回った。それだけで午前中が終わってしまったから驚きだ。
昼食の後も案内は続く。午後は、屋敷の外へ出た。敷地内にはいくつもの野菜畑や果樹園、ハーブガーデンや温室があった。奥には大きな厩舎がある。きちんと手入れされて綺麗な毛並みの馬が何十頭も並んでいた。
「アイリーン様、少し休憩しましょう。お天気も良いので、外で紅茶でも飲みませんか?」
「ええ、そうするわ」
シーナに促されてガーデンチェアに座る。
(お父様を若くして亡くされた後、こんなにも大きな敷地をエドガー様はひとりで守っていらしたのね)
どこもかしこもきちんと手入れが行き届いている。花壇に咲き誇る花やあちこちに根を張る木々にいたるまですべてが美しい。
それもすべて、エドガーの類まれぬ才覚と努力の結晶だろう。すると、門の方からアイリーンの元へ歩み寄ってくる人影が見えた。
「誰かしら……?」
目を凝らす。どうやら若い女性のようだ。距離が近付くにつれ、人影の輪郭がはっきりする。相手の女性もアイリーンの姿に気付いたようだ。
「あれは……」
(どうして彼女がエドガー様のお屋敷に?)
突然の訪問者は、舞踏会でエドガーを『エド』と親し気に呼んだイベルトン伯爵家のオゼット・フーバーだった。
オゼットが来訪したことに気が付いたシーナは二人分の紅茶とチョコチップのクッキーを運んできた。どうやら二人は以前からの顔見知りのようだ。にこやかに挨拶を交わした後、シーナは丁寧に頭を下げて去っていく。
「会うのは今日で二回目ね」
「ええ」
「アイリーン、私たちは同い年だし、堅苦しいのはなしよ。わたしのことはオゼットと呼んでちょうだい」
「ええ」
太陽の元で見るオゼットは美しかった。白磁のように滑らかな肌に塗られた白粉がキラキラと光っている。
オゼットは大きな茶色い瞳でじっとアイリーンを見つめた。
「今日はどうしてここへ? わたしがエドガー様のお屋敷にいて驚かないの?」
アイリーンはおずおずと尋ねた。
「驚かないわよ。舞踏会でエドがあなたに求婚していたのを見たもの。彼のことだから、すぐにこの屋敷に連れてくると思っていたわ」
オゼットが平然と答えたことにアイリーンは少し驚いた。オゼットがエドガーに好意を寄せているのかもしれないと思っていたからだ。
「今日はね、聞きたいことがあってきたの」
「聞きたいこと?」
「ええ。クルムド子爵家の長女アイリーンが社交界デビューを前に姿を消したって噂は聞いたことがあるわ。重病説が流れていたけれど、元気そうね。原因はそのお顔の傷なの?」
不躾な質問にも関わらず悪意を感じないのは、彼女が純粋にその理由を探ろうとしているのが伝わってくるからだろう。
アイリーンは社交界デビュー前に顔に傷を負ったことや、そのせいで屋敷に軟禁されていたことを話した。
屋敷の中にはクルムド子爵家では考えられないほど多くの働き手がいた。中には、時計を巻く人、家じゅうを回って蠟燭の灯りを調節し、交換する人もいるらしい。
アイリーンは出会う人すべてに挨拶をして回った。それだけで午前中が終わってしまったから驚きだ。
昼食の後も案内は続く。午後は、屋敷の外へ出た。敷地内にはいくつもの野菜畑や果樹園、ハーブガーデンや温室があった。奥には大きな厩舎がある。きちんと手入れされて綺麗な毛並みの馬が何十頭も並んでいた。
「アイリーン様、少し休憩しましょう。お天気も良いので、外で紅茶でも飲みませんか?」
「ええ、そうするわ」
シーナに促されてガーデンチェアに座る。
(お父様を若くして亡くされた後、こんなにも大きな敷地をエドガー様はひとりで守っていらしたのね)
どこもかしこもきちんと手入れが行き届いている。花壇に咲き誇る花やあちこちに根を張る木々にいたるまですべてが美しい。
それもすべて、エドガーの類まれぬ才覚と努力の結晶だろう。すると、門の方からアイリーンの元へ歩み寄ってくる人影が見えた。
「誰かしら……?」
目を凝らす。どうやら若い女性のようだ。距離が近付くにつれ、人影の輪郭がはっきりする。相手の女性もアイリーンの姿に気付いたようだ。
「あれは……」
(どうして彼女がエドガー様のお屋敷に?)
突然の訪問者は、舞踏会でエドガーを『エド』と親し気に呼んだイベルトン伯爵家のオゼット・フーバーだった。
オゼットが来訪したことに気が付いたシーナは二人分の紅茶とチョコチップのクッキーを運んできた。どうやら二人は以前からの顔見知りのようだ。にこやかに挨拶を交わした後、シーナは丁寧に頭を下げて去っていく。
「会うのは今日で二回目ね」
「ええ」
「アイリーン、私たちは同い年だし、堅苦しいのはなしよ。わたしのことはオゼットと呼んでちょうだい」
「ええ」
太陽の元で見るオゼットは美しかった。白磁のように滑らかな肌に塗られた白粉がキラキラと光っている。
オゼットは大きな茶色い瞳でじっとアイリーンを見つめた。
「今日はどうしてここへ? わたしがエドガー様のお屋敷にいて驚かないの?」
アイリーンはおずおずと尋ねた。
「驚かないわよ。舞踏会でエドがあなたに求婚していたのを見たもの。彼のことだから、すぐにこの屋敷に連れてくると思っていたわ」
オゼットが平然と答えたことにアイリーンは少し驚いた。オゼットがエドガーに好意を寄せているのかもしれないと思っていたからだ。
「今日はね、聞きたいことがあってきたの」
「聞きたいこと?」
「ええ。クルムド子爵家の長女アイリーンが社交界デビューを前に姿を消したって噂は聞いたことがあるわ。重病説が流れていたけれど、元気そうね。原因はそのお顔の傷なの?」
不躾な質問にも関わらず悪意を感じないのは、彼女が純粋にその理由を探ろうとしているのが伝わってくるからだろう。
アイリーンは社交界デビュー前に顔に傷を負ったことや、そのせいで屋敷に軟禁されていたことを話した。