【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「……ありがとう。今度会う時は、たくさんのお土産を持ってくるわね」
「楽しみにしてるわ」

 二人の間には穏やかな空気が流れた。オゼットはそっとアイリーンの手を取った。

「エドのことお願いね。あなたなら、きっと彼の心に近づけるはずだわ」
「そうなれるといいのだけれど」

 すると、オゼットがにっこりと美しい笑みを浮かべた。

「まずは彼とたくさんお話する機会を設けたほうがいいわ。ふたりっきりで夜空を見上げてごらんなさい。綺麗ね、うふふっとかなんだとか言っているうちに、いい雰囲気に持っていいけるわ」

 アイリーンは首を傾げた。オゼットの言う内容の恋愛小説を以前に読んだことがある。

「星を見上げるだけでいいの?」
「それだけじゃダメよ。寒いわ……って腕を擦るのよ。そうしたらエドが『俺の体で温めてやる』とか言って抱きしめてくれるから」
「それって、オゼットの経験談なの?」
「まさか! この間読んだ情熱の赤い初恋っていう恋愛小説に書いてあったのよ」
「ふふっ、それ、わたしも読んだことがあるわ」
「なっ。わたしたちって、こんなところまで気が合うのね」

 アイリーンの言葉にオゼットはぼそぼそと呟き、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「まあ、エドともっと親しくなれるように頑張ってちょうだい。今日は突然会いにきてごめんなさいね」
「エドガー様に会わないの?」

 オデットはにやりと笑った。

「エドの婚約者のあなたをきちんとこの目で確かめたかったの。もしも腹黒い子だったら、意地悪してこの屋敷から追い出していたわ」
「わたしはオゼットに追い出されないかしら?」
「あなたは合格よ、アイリーン」

 二人の息はぴったりで、以前からの親しい仲のようだった。
オゼットはエドガーにも会わずに屋敷を出て行く。アイリーンは後からやってきた執事のルシアンとシーナと共にオゼットの乗る馬車が見えなくなるまで手を振って見送った。

「オゼット様とずいぶん親しくなられたようですね」

ルシアンに聞かれて、アイリーンは大きく頷いた。

「ええ。少し不器用なところがエドガー様に似ている気がして、好感が持てたわ」
「そういえば、性格的な部分は似ているかもしれませんね。すみませんが、私はこれで」

 ルシアンは楽しそうにクスクスと笑ったあと、一足先に屋敷へ戻っていった。

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