【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
夕食を終えた後、アイリーンはオゼットに言われた通りにエドガーを誘って屋敷のバルコニーへやってきた。夜空にはキラキラと光る満点の星が広がっている。
 二人は隣同士立って空を見上げた。

「今日、オゼットが来訪したとルシアンに聞いた。ずいぶん仲良くなったらしいな」
「ええ、友達になりました」

 冷たい風が吹きぬけて、アイリーンの髪を揺らした。

「そうか。オゼットも人を見る目は確かなようだな」

 エドガーがなにかを言ったが、その声は風でかき消された。

「エドガー様、すみません。今なんとおっしゃいましたか?」
「いいんだ、大したことではない。屋敷を見て回ったと聞いた。どうだった?」
「ええ。シーナに案内してもらいました。この屋敷ではたくさんの方が働いているのですね」
「ああ。みんなよく働いてくれている」
「それは、エドガー様も同じですね。お疲れではありませんか?」

 朝早くから騎士団の稽古に出かけ、その後は隣町の視察へ出たと話に聞いた。けれど、長時間の職務を終えた今も、疲れた顔一つ見せない。

「大丈夫だ。アイリーンはどうだ? なにか困ったことなどないか?」
「ありません。このお屋敷の方々はみんな親切で、優しくしてくれます」
「そうか」

 アイリーンはちらりとエドガーに目をやった後、スケッチブックを筒状に巻いてリボンで留めた絵を勇気を出して差し出した。

「エドガー様、あのっ、これを……」
「これは……もしかして、絵を描いてくれたのか?」

 絵を受け取ったエドガーは声を弾ませる。

「はい」
「ありがとう。見ても?」

 こくりと頷く。エドガーはリボンを解いて丸まった画用紙を広げた。
 そこには木剣で戦うエドガーの姿が描かれていた。体の流れと全体のシルエットを意識して描き上げたが、動く人を描くのは初めてだった。エドガーは食い入るように画用紙を見つめた後、目を丸くしてアイリーンを見た。
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