【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
屋敷の大広間にはアイリーンが焼いたフランという洋菓子が綺麗に並べられていた。
サクッとしたブリべ生地にバニラとラム酒のきいたカスダートクリームを流して焼いた定番の焼き菓子だ。街の洋菓子店で売られているものと差異がないほどに上等な出来だった。
「わぁ、いい匂い。美味しそうだわ」
「僕らも食べていいんですか?」
集められた使用人たちがキラキラと目を輝かせている。
「たくさん作ったので、ぜひ皆さんで食べてください。気に入ってもらえるかは分かりませんが、真心を込めてシーナと二人でお作りしました」
アイリーンが「どうぞ」と一人一人に声を掛けて菓子を手渡していく姿を、エドガーは誇らしげに眺めた。家族のような親しみをもって使用人に接するアイリーンの姿に心打たれる。
抗えないほどに彼女に心惹かれているのをエドガーはハッキリと自覚した。
使用人たち全員に菓子が行き渡ったのを見届けた後、アイリーンの元へと歩み寄った。
「俺にももらえるか?」
「ええ、もちろんです」
「ありがとう」
アイリーンから受け取ったフランを食べようと口を開ける。
エドガーが食べようとする姿をアイリーンはじっと間近で凝視した。エドガーの感想をワクワクした様子で見つめるアイリーンにエドガーは苦笑する。
「そんなに見つめられると食べずらいな」
「ああ、すみませんつい……」
粗末な食べ方をしてアイリーンに嫌われたくないなどという感情はお首にも出さず、エドガーは涼しい顔でフランを口に含んだ。途端、口内にやさしい甘みが広がる。
「……あのっ、お味はいかがでしょうか?」
「ああ、美味い」
今まで食べたどの菓子よりも、アイリーンの作ってくれた菓子は美味かった。
「よかった……」
アイリーンはエドガーの言葉を喜ぶように、頬を緩めてふわりと笑った。エドガーはその笑顔に釘付けになった。
その笑顔をこの世のなによりも美しく尊いと感じた。胸をかきむしりたくなるような熱い感情がこみ上げてきて、ドキドキと胸が高鳴る。気持ちがソワソワと落ち着かなくなって、我慢ならなくなったエドガーは口元を押さえた。
「あのっ、エドガー様? どうされましたか?」
「いや、なんでもない」
「もしかして、ご気分が悪いのではありませんか? わたしの作った菓子になにか問題が――」
「違うんだ、、そうじゃない」
すぐに否定するが、アイリーンの可愛さが限界を超えてしまったなどと恥ずかしいことを大勢の人がいる大広間で言えるはずもなかった。
「あまりの美味さに感動していただけだ」
「ありがとうございます! たくさん食べてくださいね」
アイリーンはおかわりをしたいと申し出る使用人たちへ再び菓子を配り始めた。
大広間のあちこちで「美味しい」という声が飛ぶ。この場にいる全員が満たされたような笑みを浮かべていた。共に同じ菓子を食べることで一体感が生まれたようだ。
エドガーはひっそりとアイリーンと使用人のやりとりを眺めた。
二年前の戦で大切な人を失ったのはエドガーだけではない。この屋敷で働く者の中にも家族や友人を亡くして失意のどん底にいる人もいた。それでも、この領主であるエドガーを信じて、辛い顔ひとつ見せず一生懸命働いてくれたのだ。
アイリーンのお陰でエドガーはそのことに改めて気付かされた。自分を支えてくれる人々に感謝するとともに、その恩に報いることをエドガーは固く心に誓った。
サクッとしたブリべ生地にバニラとラム酒のきいたカスダートクリームを流して焼いた定番の焼き菓子だ。街の洋菓子店で売られているものと差異がないほどに上等な出来だった。
「わぁ、いい匂い。美味しそうだわ」
「僕らも食べていいんですか?」
集められた使用人たちがキラキラと目を輝かせている。
「たくさん作ったので、ぜひ皆さんで食べてください。気に入ってもらえるかは分かりませんが、真心を込めてシーナと二人でお作りしました」
アイリーンが「どうぞ」と一人一人に声を掛けて菓子を手渡していく姿を、エドガーは誇らしげに眺めた。家族のような親しみをもって使用人に接するアイリーンの姿に心打たれる。
抗えないほどに彼女に心惹かれているのをエドガーはハッキリと自覚した。
使用人たち全員に菓子が行き渡ったのを見届けた後、アイリーンの元へと歩み寄った。
「俺にももらえるか?」
「ええ、もちろんです」
「ありがとう」
アイリーンから受け取ったフランを食べようと口を開ける。
エドガーが食べようとする姿をアイリーンはじっと間近で凝視した。エドガーの感想をワクワクした様子で見つめるアイリーンにエドガーは苦笑する。
「そんなに見つめられると食べずらいな」
「ああ、すみませんつい……」
粗末な食べ方をしてアイリーンに嫌われたくないなどという感情はお首にも出さず、エドガーは涼しい顔でフランを口に含んだ。途端、口内にやさしい甘みが広がる。
「……あのっ、お味はいかがでしょうか?」
「ああ、美味い」
今まで食べたどの菓子よりも、アイリーンの作ってくれた菓子は美味かった。
「よかった……」
アイリーンはエドガーの言葉を喜ぶように、頬を緩めてふわりと笑った。エドガーはその笑顔に釘付けになった。
その笑顔をこの世のなによりも美しく尊いと感じた。胸をかきむしりたくなるような熱い感情がこみ上げてきて、ドキドキと胸が高鳴る。気持ちがソワソワと落ち着かなくなって、我慢ならなくなったエドガーは口元を押さえた。
「あのっ、エドガー様? どうされましたか?」
「いや、なんでもない」
「もしかして、ご気分が悪いのではありませんか? わたしの作った菓子になにか問題が――」
「違うんだ、、そうじゃない」
すぐに否定するが、アイリーンの可愛さが限界を超えてしまったなどと恥ずかしいことを大勢の人がいる大広間で言えるはずもなかった。
「あまりの美味さに感動していただけだ」
「ありがとうございます! たくさん食べてくださいね」
アイリーンはおかわりをしたいと申し出る使用人たちへ再び菓子を配り始めた。
大広間のあちこちで「美味しい」という声が飛ぶ。この場にいる全員が満たされたような笑みを浮かべていた。共に同じ菓子を食べることで一体感が生まれたようだ。
エドガーはひっそりとアイリーンと使用人のやりとりを眺めた。
二年前の戦で大切な人を失ったのはエドガーだけではない。この屋敷で働く者の中にも家族や友人を亡くして失意のどん底にいる人もいた。それでも、この領主であるエドガーを信じて、辛い顔ひとつ見せず一生懸命働いてくれたのだ。
アイリーンのお陰でエドガーはそのことに改めて気付かされた。自分を支えてくれる人々に感謝するとともに、その恩に報いることをエドガーは固く心に誓った。