【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
そして、ガーデンパーティの前日にアイリーンの部屋にドレスが運び込まれた。
「なんて素敵なの……!」
アイリーンは思わず感嘆の声を上げた。そこにあったのは、淡い桃色のプリンセスラインのドレスだった。ドレス全体にレースがふんだんにあしらわれ、胸元に縫い込まれた宝石がきらりと輝いている。今までの人生でこれほどまでに見事なドレスを見たことがなかった。
ドレスに合わせたネックレスと靴などの小物もすべて用意されている。
「こちらは、すべてエドガー様からの贈り物です。ここだけの話ですが、アイリーン様に似合う物をこっそり選んでくださっていたようです」
「そうだったのね」
素敵なドレスを贈られたのが嬉しいわけではなく、彼がアイリーンのことを考えてくれたのがなにより嬉しかった。
「お礼を言いにいってくるわ」
「ええ、いってらっしゃいませ。今の時間、エドガー様は執務室にいらっしゃるかと」
「ありがとう、シーナ。行ってくるわね」
アイリーンは部屋を飛び出した。すぐにエドガーにお礼が言いたかったのだ。
執務室の前に辿り着いた頃には息があがっていた。胸に手を当てて呼吸を整えてから重厚な扉をノックする。
「エドガー様、アイリーンです」
けれど、中からはなんの返答もない。首を傾げてもう一度ノックをする。
勝手に入ったら迷惑だろうと一旦は引き返そうと考えたものの、室内で倒れていないとも限らない。不安が頭を過り、アイリーンは恐る恐るドアノブに手をかけた。
「エドガー様?」
執務室へ入るのは初めてだった。禁止されていたわけではないものの、重要な書類が置かれているであろう場所に足を踏み入れるのに抵抗があった。室内は綺麗に整理整頓されていた。棚にはたくさんの本がずらりと並んでいる。中には外国の難しそうな本まである。
室内で一番目立つ壁には、絵が飾られている。高価そうな額縁に入っていたのは、以前アイリーンが描いてエドガーにプレゼントした絵だった。
(こんな風に大事に飾ってくれているなんて嬉しいわ)
焦げ茶色の木製の机の横を通り過ぎようとしたとき、机の上に置かれた写真立てに目がいった。
「これは……」
そこには可愛らしい笑顔を浮かべる少女が映っていた。
(この子……どこかで見た気がするわ……)
すると、奥の方から「うぅ……」という低いうめき声が聞こえた。弾かれるように声のする方へ向かうと、エドガーは長椅子の上で眠っていた。
「ああ、よかった……」
仰向けで眠るエドガーの腹部がわずかに上下しているのを見て安堵する。アイリーンは彼の傍まで歩み寄り、絨毯の上に腰を落とした。エドガーの寝顔をアイリーンはじっと見つめた。
今までこんな風に間近でエドガーの顔を眺めたのは初めてだった。令嬢に人気でもてはやされるのも頷ける。寝顔すら端正な美男子だった。顔にかかった黒髪をそっと手でどける。
彼の右瞼の上には二センチほどの痛々しい古傷があった。
「うっ……ロイズ……」
エドガーが苦悶の表情を浮かべた。夢でも見ているんだろうか。呼吸が荒くなり、首筋にじんわりと汗をかいている。
「エドガー様……」
アイリーンは堪らずエドガーの手を掴んでギュッと握りしめた。彼の手は大きくて骨ばっていた。手の甲にもあちこちに傷があり、胸が痛くなる。 エドガーはこの手で領地と領民を守ってきたのだろう。
「……アイリーン……?」
エドガーが目を覚ました。その目は驚き、大きく見開かれる。
「なんて素敵なの……!」
アイリーンは思わず感嘆の声を上げた。そこにあったのは、淡い桃色のプリンセスラインのドレスだった。ドレス全体にレースがふんだんにあしらわれ、胸元に縫い込まれた宝石がきらりと輝いている。今までの人生でこれほどまでに見事なドレスを見たことがなかった。
ドレスに合わせたネックレスと靴などの小物もすべて用意されている。
「こちらは、すべてエドガー様からの贈り物です。ここだけの話ですが、アイリーン様に似合う物をこっそり選んでくださっていたようです」
「そうだったのね」
素敵なドレスを贈られたのが嬉しいわけではなく、彼がアイリーンのことを考えてくれたのがなにより嬉しかった。
「お礼を言いにいってくるわ」
「ええ、いってらっしゃいませ。今の時間、エドガー様は執務室にいらっしゃるかと」
「ありがとう、シーナ。行ってくるわね」
アイリーンは部屋を飛び出した。すぐにエドガーにお礼が言いたかったのだ。
執務室の前に辿り着いた頃には息があがっていた。胸に手を当てて呼吸を整えてから重厚な扉をノックする。
「エドガー様、アイリーンです」
けれど、中からはなんの返答もない。首を傾げてもう一度ノックをする。
勝手に入ったら迷惑だろうと一旦は引き返そうと考えたものの、室内で倒れていないとも限らない。不安が頭を過り、アイリーンは恐る恐るドアノブに手をかけた。
「エドガー様?」
執務室へ入るのは初めてだった。禁止されていたわけではないものの、重要な書類が置かれているであろう場所に足を踏み入れるのに抵抗があった。室内は綺麗に整理整頓されていた。棚にはたくさんの本がずらりと並んでいる。中には外国の難しそうな本まである。
室内で一番目立つ壁には、絵が飾られている。高価そうな額縁に入っていたのは、以前アイリーンが描いてエドガーにプレゼントした絵だった。
(こんな風に大事に飾ってくれているなんて嬉しいわ)
焦げ茶色の木製の机の横を通り過ぎようとしたとき、机の上に置かれた写真立てに目がいった。
「これは……」
そこには可愛らしい笑顔を浮かべる少女が映っていた。
(この子……どこかで見た気がするわ……)
すると、奥の方から「うぅ……」という低いうめき声が聞こえた。弾かれるように声のする方へ向かうと、エドガーは長椅子の上で眠っていた。
「ああ、よかった……」
仰向けで眠るエドガーの腹部がわずかに上下しているのを見て安堵する。アイリーンは彼の傍まで歩み寄り、絨毯の上に腰を落とした。エドガーの寝顔をアイリーンはじっと見つめた。
今までこんな風に間近でエドガーの顔を眺めたのは初めてだった。令嬢に人気でもてはやされるのも頷ける。寝顔すら端正な美男子だった。顔にかかった黒髪をそっと手でどける。
彼の右瞼の上には二センチほどの痛々しい古傷があった。
「うっ……ロイズ……」
エドガーが苦悶の表情を浮かべた。夢でも見ているんだろうか。呼吸が荒くなり、首筋にじんわりと汗をかいている。
「エドガー様……」
アイリーンは堪らずエドガーの手を掴んでギュッと握りしめた。彼の手は大きくて骨ばっていた。手の甲にもあちこちに傷があり、胸が痛くなる。 エドガーはこの手で領地と領民を守ってきたのだろう。
「……アイリーン……?」
エドガーが目を覚ました。その目は驚き、大きく見開かれる。