【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「すみません、うなされていたようでしたのでつい……」
「そうだったのか。みっともないところを見せたな」
アイリーンは慌ててエドガーから手を離した。エドガーはゆっくりと身体を起こして、首筋に浮かんだ汗を拭った。
「エドガー様、大丈夫ですか?」
その顔は青白く酷く動揺しているのが手に取るように分かった。
「ああ、隣へ座ってくれ」
彼に促されてアイリーンは長椅子に座った。隣に座るエドガーは背中を丸めていた。
「エドガー様、わたしでよければ話してくれませんか?」
「……面白い話ではないぞ?」
「分かっています」
目が合い、アイリーンは決意したように言った。エドガーはぽつりぽつりと話始めた。
「二年前の戦で、親友のロイズが目の前で切り殺されたんだ。あの日から、よく眠れない。先程のような悪夢を何度も見るんだ……」
「お辛い経験をなさったんですね」
「目の前にいたのに……。俺がもっと強ければ、ロイズを助けられたかもしれないんだ」
悔しそうに奥歯を噛みしめて必死に耐えるエドガーの姿に胸が熱くなる。
慰めの言葉をかけてあげたいけれど、うまい言葉が見つからなかった。その代わりにアイリーンは黙ってエドガーの背中を擦ってあげることしかできなかった。しばらくすると、エドガーが平常心を取り戻した。
「情けないところを見せて悪かった」
「そんなことはありません。エドガー様のことを、わたしはもっと知りたいのです。あなたの喜びや幸せだけでなく、痛みや苦しみも全部」
「それは、本心か? 俺はあなたと結婚したいと思って求婚した。だが、あなたは違う。強引な手段をとった俺にこの屋敷へ連れてこられたんだ。俺に思うところもあるだろう」
「確かに……初対面のエドガー様に求婚されて驚きました。ですが、一緒に暮らし始めてあなたの人となりを知って私は……――」
そこまで言った瞬間、「待ってくれ」と制止される。エドガーはアイリーンの方へ体を向けて、両手を優しく取った。
「エドガー様?」
彼は真摯な眼差しをアイリーンに向けた。翡翠色の瞳で見つめられると、縫いとめられたように身じろぎひとつできなくなる。
「アイリーン、あなたが好きだ」
淀むことのない口調で告げられて、アイリーンの鼓動は激しく高鳴った。喜びで胸が満たされていく。恋をしたのは初めてだった。愛する人に告げられたその言葉は何事にも代えられぬほどの幸せをアイリーンにもたらした。
「それは……本当ですか?」
「ああ。嘘ではない。時間を共にするようになってあなたの人柄を知り、ますます好きになった。必ず幸せにすると約束する」
エドガーは強くも優しい色を瞳に宿している。
(エドガー様とならばきっと素敵な家族になれるはずだわ)
確信を持ったアイリーンは静かに頷いて微笑んだ。
「そうだったのか。みっともないところを見せたな」
アイリーンは慌ててエドガーから手を離した。エドガーはゆっくりと身体を起こして、首筋に浮かんだ汗を拭った。
「エドガー様、大丈夫ですか?」
その顔は青白く酷く動揺しているのが手に取るように分かった。
「ああ、隣へ座ってくれ」
彼に促されてアイリーンは長椅子に座った。隣に座るエドガーは背中を丸めていた。
「エドガー様、わたしでよければ話してくれませんか?」
「……面白い話ではないぞ?」
「分かっています」
目が合い、アイリーンは決意したように言った。エドガーはぽつりぽつりと話始めた。
「二年前の戦で、親友のロイズが目の前で切り殺されたんだ。あの日から、よく眠れない。先程のような悪夢を何度も見るんだ……」
「お辛い経験をなさったんですね」
「目の前にいたのに……。俺がもっと強ければ、ロイズを助けられたかもしれないんだ」
悔しそうに奥歯を噛みしめて必死に耐えるエドガーの姿に胸が熱くなる。
慰めの言葉をかけてあげたいけれど、うまい言葉が見つからなかった。その代わりにアイリーンは黙ってエドガーの背中を擦ってあげることしかできなかった。しばらくすると、エドガーが平常心を取り戻した。
「情けないところを見せて悪かった」
「そんなことはありません。エドガー様のことを、わたしはもっと知りたいのです。あなたの喜びや幸せだけでなく、痛みや苦しみも全部」
「それは、本心か? 俺はあなたと結婚したいと思って求婚した。だが、あなたは違う。強引な手段をとった俺にこの屋敷へ連れてこられたんだ。俺に思うところもあるだろう」
「確かに……初対面のエドガー様に求婚されて驚きました。ですが、一緒に暮らし始めてあなたの人となりを知って私は……――」
そこまで言った瞬間、「待ってくれ」と制止される。エドガーはアイリーンの方へ体を向けて、両手を優しく取った。
「エドガー様?」
彼は真摯な眼差しをアイリーンに向けた。翡翠色の瞳で見つめられると、縫いとめられたように身じろぎひとつできなくなる。
「アイリーン、あなたが好きだ」
淀むことのない口調で告げられて、アイリーンの鼓動は激しく高鳴った。喜びで胸が満たされていく。恋をしたのは初めてだった。愛する人に告げられたその言葉は何事にも代えられぬほどの幸せをアイリーンにもたらした。
「それは……本当ですか?」
「ああ。嘘ではない。時間を共にするようになってあなたの人柄を知り、ますます好きになった。必ず幸せにすると約束する」
エドガーは強くも優しい色を瞳に宿している。
(エドガー様とならばきっと素敵な家族になれるはずだわ)
確信を持ったアイリーンは静かに頷いて微笑んだ。