【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
二人を乗せた馬車は、イベルトン伯爵家へ向かった。その間、隣同士に座ったエドガーとアイリーンの手はずっと繋がれていた。他愛もない言葉を交わす時間すら楽しくてあっという間に目的地へ到着した。
馬車から降りるエドガーの手にはしっかりと杖が握られていた。
「その杖、初めてみました。新調されたのですか?」
「ああ、これは外出用だ」
黒い杖の持ち手は金色で意匠が凝らされている。アイリーンはエドガーを見つめた。濃紺の礼服に身を包んだエドガーの凛とした佇まいに胸を焦がす。
(なんて素敵なの……)
アイリーンがうっとりとした目で見つめていると、ハッとしたようにエドガーが腕を差し出した。どうやらアイリーンがエドガーにエスコートをおねだりしたと誤解したようだ。
「俺のそばを離れないでくれ」
アイリーンはそっと頷き、彼の右腕にそっと自身の腕を絡めた。
会場は多くの人で溢れていた。着飾った貴族たちが楽しそうに談笑している。その間を縫うようにゆっくりと歩を進めていると、あちこちから痛いほどの視線を投げかけられた。
その視線は主にエドガーに向けられている。
「見て。あれって、エドガー様じゃない? お噂通りの美丈夫ね」
「本当だわ。でも、杖をついていらっしゃるわ。お怪我をされたというのは、本当のようね」
「並外れた手腕で領地を広げていたお方が、あの若さで杖なんてね。なんだか幻滅だわ……」
(幻滅……? エドガー様のことをなにも知らないのにどうしてそんなことを言えるの?)
「あなた……――」
言い返そうとしたとき、噂する令嬢のひとりと目が合った。令嬢の顔が歪む。
「何かしら、あの醜い傷!」
「どうしてあんな傷モノの女がエドガー様と一緒にいるのかしら」
まるで汚物を見るかの如く顔を歪める令嬢たち。すると、エドガーがピタリと足を止めた。
その横顔はひどく険しく、抑えきれぬ怒りが滲み出ていた。
「私の噂をするのは勝手だが、彼女を傷付ける者は誰であっても許さない。いいか、これは警告だ。もしまた彼女を侮辱したらそれ相応の報いを受けさせる」
低く鋭い声に場の雰囲気がピリッと凍り付く。エドガーに睨みつけられた令嬢たちはクモの子を散らすように、一目散に逃げ出していく。
「エドガー様、すみません。わたしのせいで……」
アイリーンが謝ると、エドガーは首を横に振った。
「いいんだ。アイリーンのせいではない。だが、やっぱり顔全体をベールで覆っておくべきだったかもしれないな」
(え……? それって……)
心臓がドクンッと不快な音を立てる。
「エドガー様、それはどういうことでしょうか?」
(やっぱりこの目の傷が気になるのかしら……)
不安が胸に燻り尋ねると、エドガーは辺りに素早く視線を走らせた。
「数えきれないほどの男達が、あなたを見ているんだ」
「……顔の傷が目立つからでしょうか」
「そうではない。美しくて魅力的だからだ。下心丸出しであなたを舐めるように見る眼差しが腹立たしくてたまらないんだ」
「それは……えっと……」
「嫉妬だ。あなたが他の男に見られていると思うと、たまらない気持ちになる。我慢できないぐらい嫌だ」
その言葉が嬉しくてつい頬が緩んでしまう。
馬車から降りるエドガーの手にはしっかりと杖が握られていた。
「その杖、初めてみました。新調されたのですか?」
「ああ、これは外出用だ」
黒い杖の持ち手は金色で意匠が凝らされている。アイリーンはエドガーを見つめた。濃紺の礼服に身を包んだエドガーの凛とした佇まいに胸を焦がす。
(なんて素敵なの……)
アイリーンがうっとりとした目で見つめていると、ハッとしたようにエドガーが腕を差し出した。どうやらアイリーンがエドガーにエスコートをおねだりしたと誤解したようだ。
「俺のそばを離れないでくれ」
アイリーンはそっと頷き、彼の右腕にそっと自身の腕を絡めた。
会場は多くの人で溢れていた。着飾った貴族たちが楽しそうに談笑している。その間を縫うようにゆっくりと歩を進めていると、あちこちから痛いほどの視線を投げかけられた。
その視線は主にエドガーに向けられている。
「見て。あれって、エドガー様じゃない? お噂通りの美丈夫ね」
「本当だわ。でも、杖をついていらっしゃるわ。お怪我をされたというのは、本当のようね」
「並外れた手腕で領地を広げていたお方が、あの若さで杖なんてね。なんだか幻滅だわ……」
(幻滅……? エドガー様のことをなにも知らないのにどうしてそんなことを言えるの?)
「あなた……――」
言い返そうとしたとき、噂する令嬢のひとりと目が合った。令嬢の顔が歪む。
「何かしら、あの醜い傷!」
「どうしてあんな傷モノの女がエドガー様と一緒にいるのかしら」
まるで汚物を見るかの如く顔を歪める令嬢たち。すると、エドガーがピタリと足を止めた。
その横顔はひどく険しく、抑えきれぬ怒りが滲み出ていた。
「私の噂をするのは勝手だが、彼女を傷付ける者は誰であっても許さない。いいか、これは警告だ。もしまた彼女を侮辱したらそれ相応の報いを受けさせる」
低く鋭い声に場の雰囲気がピリッと凍り付く。エドガーに睨みつけられた令嬢たちはクモの子を散らすように、一目散に逃げ出していく。
「エドガー様、すみません。わたしのせいで……」
アイリーンが謝ると、エドガーは首を横に振った。
「いいんだ。アイリーンのせいではない。だが、やっぱり顔全体をベールで覆っておくべきだったかもしれないな」
(え……? それって……)
心臓がドクンッと不快な音を立てる。
「エドガー様、それはどういうことでしょうか?」
(やっぱりこの目の傷が気になるのかしら……)
不安が胸に燻り尋ねると、エドガーは辺りに素早く視線を走らせた。
「数えきれないほどの男達が、あなたを見ているんだ」
「……顔の傷が目立つからでしょうか」
「そうではない。美しくて魅力的だからだ。下心丸出しであなたを舐めるように見る眼差しが腹立たしくてたまらないんだ」
「それは……えっと……」
「嫉妬だ。あなたが他の男に見られていると思うと、たまらない気持ちになる。我慢できないぐらい嫌だ」
その言葉が嬉しくてつい頬が緩んでしまう。