【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「あれ見て。オゼット嬢ってばまた違う男性と踊ってるわ」
「本命は北の辺境伯のエドガー様って聞いたけど、違うの?」
「さあ? わたし、あの子嫌いなの。少し美人だからってお高くとまってるんだもの」
赤いドレスの令嬢を憎々し気に睨みつけて、数人の令嬢が集まってヒソヒソ言葉を交わしている。一方で、可愛らしい令嬢を必死に口説こうと身振り手振りでアピールをしている男性貴族。アイリーンは他人事のようにそれらを眺めた。
(なんだかすごく退屈だわ……)
幼い頃は、社交界デビューを果たして素敵な男性と出会い結婚する未来を夢見ていたというのに。
そのとき、ふいにどこからか熱い視線を感じた。アイリーンのそばの壁の近くに、金色の刺繍の入った黒い礼服姿の男性がいた。つまらなそうなオーラを体中から撒き散らかして腕を組んで佇む長身の男性をアイリーンはじっと見つめ返した。
遠目にも気品を感じる佇まいだった。目元は仮面で覆い隠されているものの、整った顔つきがはっきりと見て取れる。不思議と人の目を引く、魅力的なオーラがあるのだ。男性の傍にいた令嬢たちも彼を見つめてコソコソとなにかを囁き合っている。 けれど、男性の視線はなぜかずっとアイリーンへ向けられている。
(知り合い……という可能性はないわね)
アイリーンが首を傾げたと同時に、今度はあちらこちらからの熱のこもった視線を感じた。
その視線は主に男性のものだった。アイリーンの頭のてっぺんから足先まで舐めるように見つめる男性たちに背中がぞくっとする。
まるで品定めされているようだ。先程目が合った男性には感じなかった嫌悪感を覚える。
すると、その男性の一人が颯爽とアイリーンの前まで歩み寄った。
「なんと美しい方だ! よろしければ、私と踊っていただけませんか?」
金髪の男性が言うと同時に「キャー!」という黄色い悲鳴が上がった。
「見て! ルーズ様が!」
「そんな! ルーズ様から女性をお誘いになるなんて!」
恐らく彼は、令嬢に人気の男性貴族のようだ。これでは仮面をしている意味がないとアイリーンは心の中で苦笑いを浮かべる。
柔和そうな顔立ちの男性は、先程からひっきりなしに女性と踊っていた男性だった。
すると、「ちょっと待て!」と彼に負けじとアイリーンとダンスを踊りたいと熱望する男性陣が集まり、彼女の周りをぐるりと取り囲んだ。
「レディ、あなたのように美しい女性は初めてです」
「ああ、なんということだ。あなたはまるで天使のようだ」
口々に歯の浮くような甘いセリフを浴びせられたアイリーンが困り果てていたときだ。
「お義姉様」
義妹のソニアがアイリーンの元へカツカツと靴音を鳴らしながら歩み寄った。そして、なぜか周りにいる人間に見せつけるように自身の仮面を外した。
「お義姉様……? えっ……君はクルムド子爵家のソニア嬢ではないか。えっ、ということは……、君はクルムド子爵家のアイリーン嬢か! どうりで美しいわけだ! 仮面をしていても、ひと際輝いていました。でも、噂で重病と聞きましたが……?」
飛び上がりそうな勢いで喜ぶ男性にソニアは穏やかに微笑む。
絶世の美少女と名高きアイリーンが顔に傷を負ったという事実は、亡き父によって今までずっと伏せられていた。
男性たちがここぞとばかりにアイリーンを囃し立てた後、「お義姉さま、髪の毛にゴミが……」ソニアはアイリーンの背後に回り仮面の紐を引っ張った。はらりと取れる紐。押さえるのも間に合わず、目元の仮面が床に落ちた。
「あっ、わたしったら手が滑ってしまったわ……。お義姉さま、ごめんなさい。ずっと隠していたのに……」
ソニアは口元を手のひらで覆って、困ったように眉間に皺を寄せた。けれど、その目の奥は笑っていた。
「本命は北の辺境伯のエドガー様って聞いたけど、違うの?」
「さあ? わたし、あの子嫌いなの。少し美人だからってお高くとまってるんだもの」
赤いドレスの令嬢を憎々し気に睨みつけて、数人の令嬢が集まってヒソヒソ言葉を交わしている。一方で、可愛らしい令嬢を必死に口説こうと身振り手振りでアピールをしている男性貴族。アイリーンは他人事のようにそれらを眺めた。
(なんだかすごく退屈だわ……)
幼い頃は、社交界デビューを果たして素敵な男性と出会い結婚する未来を夢見ていたというのに。
そのとき、ふいにどこからか熱い視線を感じた。アイリーンのそばの壁の近くに、金色の刺繍の入った黒い礼服姿の男性がいた。つまらなそうなオーラを体中から撒き散らかして腕を組んで佇む長身の男性をアイリーンはじっと見つめ返した。
遠目にも気品を感じる佇まいだった。目元は仮面で覆い隠されているものの、整った顔つきがはっきりと見て取れる。不思議と人の目を引く、魅力的なオーラがあるのだ。男性の傍にいた令嬢たちも彼を見つめてコソコソとなにかを囁き合っている。 けれど、男性の視線はなぜかずっとアイリーンへ向けられている。
(知り合い……という可能性はないわね)
アイリーンが首を傾げたと同時に、今度はあちらこちらからの熱のこもった視線を感じた。
その視線は主に男性のものだった。アイリーンの頭のてっぺんから足先まで舐めるように見つめる男性たちに背中がぞくっとする。
まるで品定めされているようだ。先程目が合った男性には感じなかった嫌悪感を覚える。
すると、その男性の一人が颯爽とアイリーンの前まで歩み寄った。
「なんと美しい方だ! よろしければ、私と踊っていただけませんか?」
金髪の男性が言うと同時に「キャー!」という黄色い悲鳴が上がった。
「見て! ルーズ様が!」
「そんな! ルーズ様から女性をお誘いになるなんて!」
恐らく彼は、令嬢に人気の男性貴族のようだ。これでは仮面をしている意味がないとアイリーンは心の中で苦笑いを浮かべる。
柔和そうな顔立ちの男性は、先程からひっきりなしに女性と踊っていた男性だった。
すると、「ちょっと待て!」と彼に負けじとアイリーンとダンスを踊りたいと熱望する男性陣が集まり、彼女の周りをぐるりと取り囲んだ。
「レディ、あなたのように美しい女性は初めてです」
「ああ、なんということだ。あなたはまるで天使のようだ」
口々に歯の浮くような甘いセリフを浴びせられたアイリーンが困り果てていたときだ。
「お義姉様」
義妹のソニアがアイリーンの元へカツカツと靴音を鳴らしながら歩み寄った。そして、なぜか周りにいる人間に見せつけるように自身の仮面を外した。
「お義姉様……? えっ……君はクルムド子爵家のソニア嬢ではないか。えっ、ということは……、君はクルムド子爵家のアイリーン嬢か! どうりで美しいわけだ! 仮面をしていても、ひと際輝いていました。でも、噂で重病と聞きましたが……?」
飛び上がりそうな勢いで喜ぶ男性にソニアは穏やかに微笑む。
絶世の美少女と名高きアイリーンが顔に傷を負ったという事実は、亡き父によって今までずっと伏せられていた。
男性たちがここぞとばかりにアイリーンを囃し立てた後、「お義姉さま、髪の毛にゴミが……」ソニアはアイリーンの背後に回り仮面の紐を引っ張った。はらりと取れる紐。押さえるのも間に合わず、目元の仮面が床に落ちた。
「あっ、わたしったら手が滑ってしまったわ……。お義姉さま、ごめんなさい。ずっと隠していたのに……」
ソニアは口元を手のひらで覆って、困ったように眉間に皺を寄せた。けれど、その目の奥は笑っていた。