【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
第四章
ガーデンパーティの日、アイリーンはエドガーとソニアが言葉を交わしている場面を目撃した。盗み聞きをするつもりはなかった。けれど、聞こえてきてしまったのだ。
高く通る声でソニアが『辺境伯様はたくさんの令嬢から交際を申し込まれていたようですね。それを煩わしく思われて、あの舞踏会の日にお義姉様に白羽の矢を立てたんではありませんか?もらい手のいない傷モノのお義姉様が相手なら、意のままに操れますものね?』と言ったのだ。
『……だったらなんだ』
エドガーが真っ先に否定してくれると思っていたアイリーンは絶句し、その場に立ち尽くした。
(エドガー様……どうしてですか……?)
エドガーがアイリーンに求婚したのも、令嬢からの交際を断る大義名分になるからで、アイリーンという妻を隠れ蓑にするつもりだったということだろうか。
昨日の幸せが音を立てて崩れていく。エドガーにとってアイリーンは都合のいい女だったのだと思い知らされた。帰りの馬車でエドガーはなにかを言おうとして、口を噤んだ。
ソニアとの会話をアイリーンが聞いていたことに気付いているのかもしれないが、エドガーはそれについて追及してくることはなかった。
胸が引き裂かれたように痛んだ。底なしの悲しみと絶望感が波のように襲ってくる。エドガーと出会ってからの日々は穏やかで幸せだった。けれど、それは虚像だったのだ。
クルムド家を出てエドガーの屋敷へ向かう途中、馬車の中でアイリーンは尋ねた。
『なぜわたしなのですか? 令嬢なら他に大勢いるではありませんか?』と。
『悪いが、今は言いたくない』
エドガーはどうして婚約者にアイリーンを選んだのか、はっきりと口しなかった。それがすべて答えだったのだ。
(わたしったら、バカね。エドガー様はわたしを愛してなどいなかったのに……)
心の中でアイリーンはポツリと呟いた。
胸をかきむしりたくなるほどに苦しくなるのは、それほどまでにエドガーを愛してしまったからに他ならない。
あの日、雨の音だけがやけに大きく響く馬車の中で、アイリーンは零れそうになる涙を必死に堪えた。
高く通る声でソニアが『辺境伯様はたくさんの令嬢から交際を申し込まれていたようですね。それを煩わしく思われて、あの舞踏会の日にお義姉様に白羽の矢を立てたんではありませんか?もらい手のいない傷モノのお義姉様が相手なら、意のままに操れますものね?』と言ったのだ。
『……だったらなんだ』
エドガーが真っ先に否定してくれると思っていたアイリーンは絶句し、その場に立ち尽くした。
(エドガー様……どうしてですか……?)
エドガーがアイリーンに求婚したのも、令嬢からの交際を断る大義名分になるからで、アイリーンという妻を隠れ蓑にするつもりだったということだろうか。
昨日の幸せが音を立てて崩れていく。エドガーにとってアイリーンは都合のいい女だったのだと思い知らされた。帰りの馬車でエドガーはなにかを言おうとして、口を噤んだ。
ソニアとの会話をアイリーンが聞いていたことに気付いているのかもしれないが、エドガーはそれについて追及してくることはなかった。
胸が引き裂かれたように痛んだ。底なしの悲しみと絶望感が波のように襲ってくる。エドガーと出会ってからの日々は穏やかで幸せだった。けれど、それは虚像だったのだ。
クルムド家を出てエドガーの屋敷へ向かう途中、馬車の中でアイリーンは尋ねた。
『なぜわたしなのですか? 令嬢なら他に大勢いるではありませんか?』と。
『悪いが、今は言いたくない』
エドガーはどうして婚約者にアイリーンを選んだのか、はっきりと口しなかった。それがすべて答えだったのだ。
(わたしったら、バカね。エドガー様はわたしを愛してなどいなかったのに……)
心の中でアイリーンはポツリと呟いた。
胸をかきむしりたくなるほどに苦しくなるのは、それほどまでにエドガーを愛してしまったからに他ならない。
あの日、雨の音だけがやけに大きく響く馬車の中で、アイリーンは零れそうになる涙を必死に堪えた。