【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
それから三日間、アイリーンはエドガーを避け続けた。『一緒に食事をとろう』とか『具合が悪いなら医者を呼ぶぞ』とかエドガーは何度も部屋の外へやってきてはアイリーンに声を掛け続けた。泣き腫らした顔でエドガーに会うことは憚れたため、扉越しに丁重にお断りした。
シーナの話によると、彼はアイリーンが引きこもるようになってから部屋の前を悩ましい表情を浮かべて行ったり来たりしていたらしい。シーナが理由を尋ねると、『最近体がなまっているから動かさなくてはいけないと思ってな』と下手な嘘をついていたようだ。
(このままエドガー様を避け続けていても、問題は解決しないわね)
アイリーンはエドガーときちんと話し合うことに決めた。その機会を見計らっていた矢先、エドガーから一緒に街へ出かけようという誘いを受けた。いい機会だとアイリーンはすぐに承諾した。
「アイリーン様、大丈夫ですか? やはりまだ顔色が優れないようですが」
部屋へやってきた侍女のシーナが心配そうにアイリーンの顔を覗き込む。
「心配をかけてごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」
ガーデンパーティに出かける直前までエドガーと気持ちが通じ合ったことを喜んでいたアイリーンが、帰宅後突然塞ぎこんでしまったのだ。シーナはアイリーンの身に悪い出来事が起こったのだと察し、心から案じてくれていた。
シーナに心配をかけてしまっていることに申し訳なさを感じる。
(逃げずにエドガー様と向き合わなくちゃ)
用意を終えてエドガーと共に馬車に乗り込み、アイリーンは街へ向かった。
屋敷の東の方角へ馬車を走らせ、港のある大きな町に出た。熱気であふれるこの場所も、エドガーが管理しているサンドリッチ領らしい。今日は年に一度の盛大な祭りがおこなわれる。多くの屋台が立ち並び、近隣の地域から訪れた人々でおおいに賑わっていた。
馬車を降りた二人はいまだにぎくしゃくとした雰囲気だった。アイリーンはエドガーと揃って歩きながら屋台に目を向けた。
串を刺して焼いた羊肉のソーセージから食欲を誘う良い匂いが漂ってきて、思わずごくりと唾をのみこむ。
「食べるか?」
「いえ」
エドガーの言葉にアイリーンは曖昧に微笑んで首を横に振った。例え買ったとしても、食べる場所がない。立ったまま食べるのはさすがに行儀が悪い。
けれど、エドガーは屋台へ歩み寄ってソーセージを二つ買って戻ってきた。
「食べよう。この店のソーセージは絶品だぞ」
「……ですが、ここでは……」
「淑女たるもの、立ち食いはいけないと? それならば、今日は淑女を休んでくれ。このあとは骨付き肉にかぶりつく」
「骨付き肉……ですか?」
「あなたはどちらかというと、魚より肉の方が好きだろう?」
アイリーンをチラッと横目に見て、エドガーが得意げに尋ねた。
言い当てられたアイリーンは目を丸くする。エドガーにそんな話をしたことは一度もなかった。
「どうしてそれを……?」
「毎日一緒に食事をとっていたんだ。それぐらいわかる」
(わたしのことを見てくれていたの……?)
再び沸き上がりそうになる淡い期待を押し殺すように、アイリーンはギュッときつく手のひらを握りしめた。
「他にも甘いマフィンやクッキーもある。どうだ、食べたくはないか?」
アイリーンを誘惑するように、エドガーの手にある羊肉のソーセージが良い匂いを放つ。
「無理にとは言わない。どうする?」
挑発的なエドガーにアイリーンは陥落した。
「……食べたいです」
「よかった。では、全部一緒に食べよう」
食べ物につられてしまった自分を不甲斐なく思う一方で、互いの間に流れていたぎこちない雰囲気が和らいだ。アイリーンとエドガーはあちこちの屋台に立ち寄ってあれこれ買い込んで、舌鼓をうった。
店から店を渡り歩いているうちに自然とアイリーンの顔には笑顔が浮かんでいた。
最初は気遣うような表情だったエドガーも、ふわふわと舞い踊るように歩く彼女を見て自然な笑顔を浮かべた。
アイリーンはエドガーとの時間を心から楽しんだ。一緒にいると心が弾み、自然と笑顔になる。
シーナの話によると、彼はアイリーンが引きこもるようになってから部屋の前を悩ましい表情を浮かべて行ったり来たりしていたらしい。シーナが理由を尋ねると、『最近体がなまっているから動かさなくてはいけないと思ってな』と下手な嘘をついていたようだ。
(このままエドガー様を避け続けていても、問題は解決しないわね)
アイリーンはエドガーときちんと話し合うことに決めた。その機会を見計らっていた矢先、エドガーから一緒に街へ出かけようという誘いを受けた。いい機会だとアイリーンはすぐに承諾した。
「アイリーン様、大丈夫ですか? やはりまだ顔色が優れないようですが」
部屋へやってきた侍女のシーナが心配そうにアイリーンの顔を覗き込む。
「心配をかけてごめんなさい。でも、もう大丈夫よ」
ガーデンパーティに出かける直前までエドガーと気持ちが通じ合ったことを喜んでいたアイリーンが、帰宅後突然塞ぎこんでしまったのだ。シーナはアイリーンの身に悪い出来事が起こったのだと察し、心から案じてくれていた。
シーナに心配をかけてしまっていることに申し訳なさを感じる。
(逃げずにエドガー様と向き合わなくちゃ)
用意を終えてエドガーと共に馬車に乗り込み、アイリーンは街へ向かった。
屋敷の東の方角へ馬車を走らせ、港のある大きな町に出た。熱気であふれるこの場所も、エドガーが管理しているサンドリッチ領らしい。今日は年に一度の盛大な祭りがおこなわれる。多くの屋台が立ち並び、近隣の地域から訪れた人々でおおいに賑わっていた。
馬車を降りた二人はいまだにぎくしゃくとした雰囲気だった。アイリーンはエドガーと揃って歩きながら屋台に目を向けた。
串を刺して焼いた羊肉のソーセージから食欲を誘う良い匂いが漂ってきて、思わずごくりと唾をのみこむ。
「食べるか?」
「いえ」
エドガーの言葉にアイリーンは曖昧に微笑んで首を横に振った。例え買ったとしても、食べる場所がない。立ったまま食べるのはさすがに行儀が悪い。
けれど、エドガーは屋台へ歩み寄ってソーセージを二つ買って戻ってきた。
「食べよう。この店のソーセージは絶品だぞ」
「……ですが、ここでは……」
「淑女たるもの、立ち食いはいけないと? それならば、今日は淑女を休んでくれ。このあとは骨付き肉にかぶりつく」
「骨付き肉……ですか?」
「あなたはどちらかというと、魚より肉の方が好きだろう?」
アイリーンをチラッと横目に見て、エドガーが得意げに尋ねた。
言い当てられたアイリーンは目を丸くする。エドガーにそんな話をしたことは一度もなかった。
「どうしてそれを……?」
「毎日一緒に食事をとっていたんだ。それぐらいわかる」
(わたしのことを見てくれていたの……?)
再び沸き上がりそうになる淡い期待を押し殺すように、アイリーンはギュッときつく手のひらを握りしめた。
「他にも甘いマフィンやクッキーもある。どうだ、食べたくはないか?」
アイリーンを誘惑するように、エドガーの手にある羊肉のソーセージが良い匂いを放つ。
「無理にとは言わない。どうする?」
挑発的なエドガーにアイリーンは陥落した。
「……食べたいです」
「よかった。では、全部一緒に食べよう」
食べ物につられてしまった自分を不甲斐なく思う一方で、互いの間に流れていたぎこちない雰囲気が和らいだ。アイリーンとエドガーはあちこちの屋台に立ち寄ってあれこれ買い込んで、舌鼓をうった。
店から店を渡り歩いているうちに自然とアイリーンの顔には笑顔が浮かんでいた。
最初は気遣うような表情だったエドガーも、ふわふわと舞い踊るように歩く彼女を見て自然な笑顔を浮かべた。
アイリーンはエドガーとの時間を心から楽しんだ。一緒にいると心が弾み、自然と笑顔になる。