【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「だから、あの日ソニア嬢に話しかけられたときも一分でも一秒でも早く話を切り上げたくて、適当に相槌を打ってしまった。彼女は猫を被っているが、気の強さは一級品だ。下手に反論すれば、ムキになって言い返してくるだろう。そうなれば、アイリーンが戻ってきてしまう。俺はあなたとソニア嬢を会わせたくなかったんだ」

膝の上で握られている彼の拳に力がこもる。

「だが、それは全部俺の言い訳だ。アイリーンが聞けば傷付けてしまうと分かっていたのに、あまりにも迂闊だった。弁解のしようがない」

 エドガーが心から申し訳ないと思う気持ちが、空気越しに伝わってきた。

「謝らないでください。エドガー様がわたしを思ってくれていることはよく分かりました。わたしこそ、話し合いを避けて部屋に閉じこもるなんて子供のようなまねをしてすみません」
「そんなことはない。事の発端をつくったのは俺だ」
「では、あの日にあったことはお互い水に流しましょう。わたしは……これから先もエドガー様と一緒にいたいのです」

 アイリーンは素直な気持ちを吐露した。エドガーは「俺もだ」と頷いた後、真っすぐアイリーンを見つめた。

「だが、その前に言わなくてはいけないことがある。俺はアイリーンに隠していることがあるんだ」
「隠していること、ですか?」
「ああ。目の傷に関係することだ」
「あのっ、エドガー様……それはどういう意味でしょうか?」

 思いがけないエドガーの言葉に、アイリーンは酷く動揺した。

「実は――」

 エドガーが口を開いた瞬間だった。ザッザッと背後から砂を蹴り上げるような音がした。 

「――アイリーン、逃げろ!!」

音の正体を確かめようとして振り返る前に、エドガーが短く叫んだ。
エドガーは地面についていた杖にぐっと力を込めて、その反動で素早く立ち上がった。
そして、杖の柄を右手で握りしめて勢いよく引き抜いた。現れたのは磨き上げられた長剣だった。ただの杖かと思っていたが、杖が鞘の役割を果たしていたらしい。
エドガーがアイリーンを守るように剣を構えた瞬間、ようやく何か大変なことが起きたのだと理解した。
アイリーンは慌てて立ち上がって振り返る。そこには目から下を布で覆って短剣を握る三人組の男の姿があった。

「武器を置け! 今なら見逃してやる」

エドガーが鋭く叫ぶ。突然の奇襲にあったにも関わらず、エドガーは至極冷静だった。

「お前……立てるのか?」
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