【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
アイリーンはエドガーと共に屋敷へ戻り、呼び寄せた医者から傷の手当てを受けた。
予想通り傷は浅く、痕は残らないだろうとのことだった。鎮痛剤を飲んだお陰で痛みもほとんどない。
「アイリーン様、ご無事でなによりです」
事情を聞いたシーナは、ボロボロと涙を流してアイリーンの無事を喜んだ。
深刻なのはエドガーの傷だった。右腕に八センチほどの刺傷を負った。深さもあり、しばらくは絶対安静だと医師に告げられていた。
腕に包帯を巻かれているエドガーをアイリーンは傍で見つめた。逞しく引き締まった上半身のあちこちに傷あった。その傷はエドガーがこの地を必死で守ろうとした証のようだった。
傷の治療を受けている間も、エドガーは顔色一つ変えなかった。
ただじっと一点を見つめて何かを考えていた。その瞳は怖いぐらいに鋭くて冷たかった。気軽に話しかけることすら憚られ、アイリーンは黙って見守ることしかできなかった。
大怪我を負ったにも関わらず、エドガーは再び身支度を整えて、ジャケットを羽織った。
「いけません、エドガー様! 無理をして傷が開いてしまったら大変だ」
執事のルシアンが珍しく感情的に叫んだ。エドガーはポンッとルシアンの肩を叩いた。
「大丈夫だ、俺の心配はいらない。悪いがアイリーンとふたりにしてもらえないか?」
「エドガー様!」
「頼む、ルシアン」
「……分かりました。シーナ、行こう」
何かを言いたそうな表情を浮かべながらも、ルシアンはシーナを連れて部屋を出て行く。
アイリーンの向かい側に立ったエドガーは、慈しむような視線で彼女を見つめて、そっと頬に手を伸ばす。けれど、寸前のところでその手を下げた。
「腕の傷は痛むだろう。怖い思いをさせてしまったな」
「エドガー様のせいではありません。悪いのはあの暴漢たちです」
「すまない、アイリーン。情けないことに俺は……目の前にいるあなたを守ることができなかった」
その表情は、後悔の念に苛まれているようだった。アイリーンが怪我を負ったのはエドガーのせいではない。
暴漢たちがアイリーンとエドガーに狙いを定めていたのは火を見るよりも明らかだった。屈強な大男四人に襲われてこの程度の怪我で済んだことのほうが奇跡だ。
しかも、エドガーはアイリーンを守りながら、右手一本で男とやりあったのだ。
「そんなことを言わないでください。エドガー様がいなかったらわたしは今頃この世にはいなかったかもしれません」
大袈裟ではなく事実だった。暴漢のうちの一人は五年前に少女を誘拐しようと目論み、アイリーンを傷付けた悪党だった。人の心を持っていない獣同然の男の凶刃に倒れずに済んだのは、命がけで守ってくれたエドガーのお陰だ。
「これから、捕らえた男に話を聞きに行く。アイリーンは屋敷で休んでいてくれ。医師には屋敷に留まってもらうよう頼んでおいた。もし傷が痛むようならすぐにシーナへ伝えるんだ。いいな?」
「分かりました」
矢継ぎ早に言い残して、エドガーは固い表情のまま部屋を出て行く。その背中には鬼気迫るものがあり、アイリーンの胸には言いようもない焦燥感が込み上げた。
予想通り傷は浅く、痕は残らないだろうとのことだった。鎮痛剤を飲んだお陰で痛みもほとんどない。
「アイリーン様、ご無事でなによりです」
事情を聞いたシーナは、ボロボロと涙を流してアイリーンの無事を喜んだ。
深刻なのはエドガーの傷だった。右腕に八センチほどの刺傷を負った。深さもあり、しばらくは絶対安静だと医師に告げられていた。
腕に包帯を巻かれているエドガーをアイリーンは傍で見つめた。逞しく引き締まった上半身のあちこちに傷あった。その傷はエドガーがこの地を必死で守ろうとした証のようだった。
傷の治療を受けている間も、エドガーは顔色一つ変えなかった。
ただじっと一点を見つめて何かを考えていた。その瞳は怖いぐらいに鋭くて冷たかった。気軽に話しかけることすら憚られ、アイリーンは黙って見守ることしかできなかった。
大怪我を負ったにも関わらず、エドガーは再び身支度を整えて、ジャケットを羽織った。
「いけません、エドガー様! 無理をして傷が開いてしまったら大変だ」
執事のルシアンが珍しく感情的に叫んだ。エドガーはポンッとルシアンの肩を叩いた。
「大丈夫だ、俺の心配はいらない。悪いがアイリーンとふたりにしてもらえないか?」
「エドガー様!」
「頼む、ルシアン」
「……分かりました。シーナ、行こう」
何かを言いたそうな表情を浮かべながらも、ルシアンはシーナを連れて部屋を出て行く。
アイリーンの向かい側に立ったエドガーは、慈しむような視線で彼女を見つめて、そっと頬に手を伸ばす。けれど、寸前のところでその手を下げた。
「腕の傷は痛むだろう。怖い思いをさせてしまったな」
「エドガー様のせいではありません。悪いのはあの暴漢たちです」
「すまない、アイリーン。情けないことに俺は……目の前にいるあなたを守ることができなかった」
その表情は、後悔の念に苛まれているようだった。アイリーンが怪我を負ったのはエドガーのせいではない。
暴漢たちがアイリーンとエドガーに狙いを定めていたのは火を見るよりも明らかだった。屈強な大男四人に襲われてこの程度の怪我で済んだことのほうが奇跡だ。
しかも、エドガーはアイリーンを守りながら、右手一本で男とやりあったのだ。
「そんなことを言わないでください。エドガー様がいなかったらわたしは今頃この世にはいなかったかもしれません」
大袈裟ではなく事実だった。暴漢のうちの一人は五年前に少女を誘拐しようと目論み、アイリーンを傷付けた悪党だった。人の心を持っていない獣同然の男の凶刃に倒れずに済んだのは、命がけで守ってくれたエドガーのお陰だ。
「これから、捕らえた男に話を聞きに行く。アイリーンは屋敷で休んでいてくれ。医師には屋敷に留まってもらうよう頼んでおいた。もし傷が痛むようならすぐにシーナへ伝えるんだ。いいな?」
「分かりました」
矢継ぎ早に言い残して、エドガーは固い表情のまま部屋を出て行く。その背中には鬼気迫るものがあり、アイリーンの胸には言いようもない焦燥感が込み上げた。