【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
一通り笑った後、継母はぴたりと笑うのをやめてエドガーを睨み付けた。
「アイリーンを傷モノにしたのは、辺境伯様の妹のエマ様だったんですわね?」
「今、なんておっしゃいましたか……?」
アイリーンは震える声で聞き返した。
「アイリーン、あなたが助けた少女は、辺境伯様の妹のエマ様だったと言ったのよ」
脳が言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
(あの日の少女がエドガー様の妹……?)
継母は今までもたくさんの嘘をついてアイリーンを欺いてきた。彼女の言葉を信じられず、エドガーに目を向ける。エドガーも同じタイミングでアイリーンに目を向けた。
(きっとこれも継母の嘘だ……わたしが幸せになるのが気に入らなくてこんなことを言っているだけだわ)
すると、エドガーはアイリーンの意に反して「すまない」と言って目を伏せた。
「まさか……本当のことなんですか……?」
「ああ。妹のエマは五年前、アイリーンに救ってもらった少女で間違いない」
「そんな……。エドガー様はいつから知っていたのですか?」
アイリーンの頭の中には様々な疑問が一気に湧き上がってきていた。
「何を不毛な質問を! そんなもの、初めからに決まっているでしょう? 辺境伯様はそれを知っていてアイリーンに求婚をなさったのね。娘を傷モノにしたくせに黙っているなんて、いくらなんでもひどいんじゃありませんか?」
「エドガー様にそのような言い方はなさらないでください!」
アイリーンはエドガーを庇うように叫んだ。
「いいんだ、アイリーン。私は責められても当然のことをした」
エドガーは苦し気に表情を歪めた。その横顔からは、いつものような覇気は感じられない。
「そんな……。エドガー様がわたしへ求婚してくれたのも、わたしへの罪の意識からだったのですか……?」
妹を助けてもらった代わりに、アイリーンは顔に傷を負った。アイリーンに向ける優しさや気遣いすべてが贖罪だったとしたら……。
「そう思われても仕方がない」
固い表情のままエドガーが言った。その瞬間、目頭がかっと熱くなり、アイリーンは溢れそうな涙を堪えようとギュッと唇を噛みしめた。
エドガーは継母に目を向ける。
「あなたの言う通りだ。私は全てを知っていながらアイリーンに求婚した。酷いと罵られても仕方のないことをしました」
「ふふっ、潔く罪をお認めになられてよかったわ。では、この婚約は破棄ということでよろしいわね。こんな風に欺かれて大切な娘を奪われて心を傷付けられましたのよ。それ相応の慰謝料をお支払いいただけますわね?」
「大切な娘……? よくもそんなことを……」
アイリーンはとんでもないというように叫んだ。怒りで唇がワナワナと震える。
「なにを言うの。あなたは大切な娘よ。もちろん、ソニアにとっても大事な姉よ。ねぇ、ソニア?」
「ええ、もちろんよ。お義姉には辺境伯様ではなく、違う男性に幸せにしてもらったほうがいいわっ」
今まで彼女を散々虐げてきた継母の見事なまでの手のひら返しに、アイリーンの頭の中である仮説が成り立った。
(エドガー様側の過失で婚約破棄をさせて彼から慰謝料を奪い取るだけでなく、わたしをどこかへ嫁がせようとしているんだわ……)
恐らくその相手は、継母たちにとって都合の良い相手なんだろう。彼女たちの思惑を知ったアイリーンは表情を強張らせた。
「アイリーンはこのまま我が家へ連れて帰ります。よろしいですわね?」
「なっ……、そんなの嫌です! わたしは絶対に帰りません!」
アイリーンは立ち上がって叫んだ。怒りと焦りでひどく取り乱し、真っ赤な顔をしていた。すると、エドガーが「アイリーン、座ってくれ」と落ち着いた声色で言った。
「エマのことを秘密にしていた過失は私にある。だが、アイリーンをこのままあなたたちに預けるつもりはさらさらありません」
エドガーは膝の上で両手を組んで継母を見下ろした。
「なんですって! 開き直るおつもり!? わたしたちはその為にはるばるこんな辺境の地までやってきたのですよ!?」
継母の言葉にもとげがあった。エドガーが自分よりも高い身分であることを分かっていながら、今までの報復とばかりに侮辱する言葉を放った。エドガーは小さく息を吐きだした。
「そろそろ、お引き取り願いたい」
「なっ……、わたしたちを追い出す気ですの!?」
「ルシアン! お客様がお帰りだ」
エドガーに呼びつけられたルシアンは柔和な笑みを浮かべながら継母とソニアを出口へ誘導する。
継母が振り返り、アイリーンを鋭く睨んだ。
「覚えてなさい! 必ずあなたをクルムド家に連れ戻すわ!」
継母とソニアが応接間から出て行くと、エドガーは「少し風に当たらないか?」といまだ動揺しているアイリーンを園庭に誘った。
「アイリーンを傷モノにしたのは、辺境伯様の妹のエマ様だったんですわね?」
「今、なんておっしゃいましたか……?」
アイリーンは震える声で聞き返した。
「アイリーン、あなたが助けた少女は、辺境伯様の妹のエマ様だったと言ったのよ」
脳が言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
(あの日の少女がエドガー様の妹……?)
継母は今までもたくさんの嘘をついてアイリーンを欺いてきた。彼女の言葉を信じられず、エドガーに目を向ける。エドガーも同じタイミングでアイリーンに目を向けた。
(きっとこれも継母の嘘だ……わたしが幸せになるのが気に入らなくてこんなことを言っているだけだわ)
すると、エドガーはアイリーンの意に反して「すまない」と言って目を伏せた。
「まさか……本当のことなんですか……?」
「ああ。妹のエマは五年前、アイリーンに救ってもらった少女で間違いない」
「そんな……。エドガー様はいつから知っていたのですか?」
アイリーンの頭の中には様々な疑問が一気に湧き上がってきていた。
「何を不毛な質問を! そんなもの、初めからに決まっているでしょう? 辺境伯様はそれを知っていてアイリーンに求婚をなさったのね。娘を傷モノにしたくせに黙っているなんて、いくらなんでもひどいんじゃありませんか?」
「エドガー様にそのような言い方はなさらないでください!」
アイリーンはエドガーを庇うように叫んだ。
「いいんだ、アイリーン。私は責められても当然のことをした」
エドガーは苦し気に表情を歪めた。その横顔からは、いつものような覇気は感じられない。
「そんな……。エドガー様がわたしへ求婚してくれたのも、わたしへの罪の意識からだったのですか……?」
妹を助けてもらった代わりに、アイリーンは顔に傷を負った。アイリーンに向ける優しさや気遣いすべてが贖罪だったとしたら……。
「そう思われても仕方がない」
固い表情のままエドガーが言った。その瞬間、目頭がかっと熱くなり、アイリーンは溢れそうな涙を堪えようとギュッと唇を噛みしめた。
エドガーは継母に目を向ける。
「あなたの言う通りだ。私は全てを知っていながらアイリーンに求婚した。酷いと罵られても仕方のないことをしました」
「ふふっ、潔く罪をお認めになられてよかったわ。では、この婚約は破棄ということでよろしいわね。こんな風に欺かれて大切な娘を奪われて心を傷付けられましたのよ。それ相応の慰謝料をお支払いいただけますわね?」
「大切な娘……? よくもそんなことを……」
アイリーンはとんでもないというように叫んだ。怒りで唇がワナワナと震える。
「なにを言うの。あなたは大切な娘よ。もちろん、ソニアにとっても大事な姉よ。ねぇ、ソニア?」
「ええ、もちろんよ。お義姉には辺境伯様ではなく、違う男性に幸せにしてもらったほうがいいわっ」
今まで彼女を散々虐げてきた継母の見事なまでの手のひら返しに、アイリーンの頭の中である仮説が成り立った。
(エドガー様側の過失で婚約破棄をさせて彼から慰謝料を奪い取るだけでなく、わたしをどこかへ嫁がせようとしているんだわ……)
恐らくその相手は、継母たちにとって都合の良い相手なんだろう。彼女たちの思惑を知ったアイリーンは表情を強張らせた。
「アイリーンはこのまま我が家へ連れて帰ります。よろしいですわね?」
「なっ……、そんなの嫌です! わたしは絶対に帰りません!」
アイリーンは立ち上がって叫んだ。怒りと焦りでひどく取り乱し、真っ赤な顔をしていた。すると、エドガーが「アイリーン、座ってくれ」と落ち着いた声色で言った。
「エマのことを秘密にしていた過失は私にある。だが、アイリーンをこのままあなたたちに預けるつもりはさらさらありません」
エドガーは膝の上で両手を組んで継母を見下ろした。
「なんですって! 開き直るおつもり!? わたしたちはその為にはるばるこんな辺境の地までやってきたのですよ!?」
継母の言葉にもとげがあった。エドガーが自分よりも高い身分であることを分かっていながら、今までの報復とばかりに侮辱する言葉を放った。エドガーは小さく息を吐きだした。
「そろそろ、お引き取り願いたい」
「なっ……、わたしたちを追い出す気ですの!?」
「ルシアン! お客様がお帰りだ」
エドガーに呼びつけられたルシアンは柔和な笑みを浮かべながら継母とソニアを出口へ誘導する。
継母が振り返り、アイリーンを鋭く睨んだ。
「覚えてなさい! 必ずあなたをクルムド家に連れ戻すわ!」
継母とソニアが応接間から出て行くと、エドガーは「少し風に当たらないか?」といまだ動揺しているアイリーンを園庭に誘った。