【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
手入れの行き届いた園庭には色とりどりの花が咲いていた。アイリーンは杖を突きながら歩くエドガーの半歩後ろをゆっくりと追いかけた。
「ここへ座ろう」
周りを花に囲まれた木製のベンチへ揃って腰掛ける。二人の間に漂う空気はぴりっと張り詰めている。
「今までずっと黙っていて悪かった。あんな風に知らされる前に、きちんと話しておくべきだった」
エドガーはゆっくりと言葉を紡いだ。
「いつわたしに気付いたのですか……?」
「舞踏会だ。ずっとエマを助けてくれた恩人を探していて、あの日……俺はあなたを見つけた」
エドガーの言葉に思い当たる節がある。あの日、確かにエドガーは『澄んだ青い瞳にブロンドベージュの髪……。間違いないな』とぶつぶつ呟いていた。あのときはその意味を理解できずにいたものの、今真実を知りようやく腑に落ちた。
「執務室に置いてある笑顔の可愛らしい少女がエマ様ですか?」
「ああ。エマは亡くなる直前まで自分を助けてくれた女性が顔に傷を負ってしまったと心を痛めていた。俺はエマに恩人を探し出して謝罪とお礼を伝えるようにと頼まれた」
「エマ様がそんなことを……」
五年前のあの日の出来事が鮮明に蘇る。少女を助けるのに必死で顔をしっかりと記憶してはいなかった。けれど、少女と目が合った瞬間だけは覚えている。
「翡翠色の瞳……。あの子の目の色だけは覚えています」
「ああ、エマは俺と同じ瞳の色をしていた」
少女を助けて顔に傷を負ったことをアイリーンは悔やんでなどいない。少女が誘拐されかけているのに気付いていながら見て見ぬふりをすれば、自分を嫌いになっていただろう
「エドガー様……正直に答えてください。あの日、わたしの前に跪いたのは贖罪の気持ちからですか? この目の傷を見て不憫に思えたから、求婚をなさったのですか?」
「それは、違う! 絶対にだ。神に誓ってもいい」
「わたしを好きだと言ってくれたのも嘘ではないのですか?」
「ああ。あなたを好きだという気持ちに嘘はない!」
エドガーは珍しく感情的になった。縋るような瞳を向けられる。その表情には信じて欲しいと書いてある。けれど、エドガーは思い直したように再び険しい表情になった。
「……アイリーン、あなたはクルムド家に戻りたくはないんだな?」
「ええ、もちろんです」
アイリーンは大きく頷いた。クルムド家へ戻りたくないのはもちろんだが、他の場所へ行く気もなかった。ずっとエドガーのそばにいたかった。
「分かった。それなら、嫌だろうがしばらくここへいてくれ。あなたが幸せに暮らせるように条件の良い結婚相手を探そう。あなたが心穏やかでいられる、強くて優しい家庭的な男がいいかもしれないな」
「なっ……」
予想外の言葉にアイリーンは言葉を失った。
「どうしてです……? どうしてそんなことをおっしゃるのですか!?」
「あなたには幸せになって欲しいんだ。頼む、分かってくれ」
その声は優しく、アイリーンに向けられる目は愛情にあふれていた。
(どうしてそんなことを言うの……?)
このままではエドガーが離れていってしまう。エドガーと離れ離れで生きることなど、できっこない。それほどまでにアイリーンはエドガーを愛していた。
目を固くつぶって呼吸を整える。
例え拒まれたとしても、溢れるこの気持ちをエドガーに伝えようと心に決める。
「話はこれで終わりだ。妹を……エマを助けてくれて本当にありがとう。それから’あなたを傷付けたことを心から詫びる。申し訳なかった」
隣でエドガーが杖を握ったのに気付いたアイリーンは「嫌です」とハッキリ言った。
目を開けた瞬間、大粒の涙が頬を伝う。
「ここへ座ろう」
周りを花に囲まれた木製のベンチへ揃って腰掛ける。二人の間に漂う空気はぴりっと張り詰めている。
「今までずっと黙っていて悪かった。あんな風に知らされる前に、きちんと話しておくべきだった」
エドガーはゆっくりと言葉を紡いだ。
「いつわたしに気付いたのですか……?」
「舞踏会だ。ずっとエマを助けてくれた恩人を探していて、あの日……俺はあなたを見つけた」
エドガーの言葉に思い当たる節がある。あの日、確かにエドガーは『澄んだ青い瞳にブロンドベージュの髪……。間違いないな』とぶつぶつ呟いていた。あのときはその意味を理解できずにいたものの、今真実を知りようやく腑に落ちた。
「執務室に置いてある笑顔の可愛らしい少女がエマ様ですか?」
「ああ。エマは亡くなる直前まで自分を助けてくれた女性が顔に傷を負ってしまったと心を痛めていた。俺はエマに恩人を探し出して謝罪とお礼を伝えるようにと頼まれた」
「エマ様がそんなことを……」
五年前のあの日の出来事が鮮明に蘇る。少女を助けるのに必死で顔をしっかりと記憶してはいなかった。けれど、少女と目が合った瞬間だけは覚えている。
「翡翠色の瞳……。あの子の目の色だけは覚えています」
「ああ、エマは俺と同じ瞳の色をしていた」
少女を助けて顔に傷を負ったことをアイリーンは悔やんでなどいない。少女が誘拐されかけているのに気付いていながら見て見ぬふりをすれば、自分を嫌いになっていただろう
「エドガー様……正直に答えてください。あの日、わたしの前に跪いたのは贖罪の気持ちからですか? この目の傷を見て不憫に思えたから、求婚をなさったのですか?」
「それは、違う! 絶対にだ。神に誓ってもいい」
「わたしを好きだと言ってくれたのも嘘ではないのですか?」
「ああ。あなたを好きだという気持ちに嘘はない!」
エドガーは珍しく感情的になった。縋るような瞳を向けられる。その表情には信じて欲しいと書いてある。けれど、エドガーは思い直したように再び険しい表情になった。
「……アイリーン、あなたはクルムド家に戻りたくはないんだな?」
「ええ、もちろんです」
アイリーンは大きく頷いた。クルムド家へ戻りたくないのはもちろんだが、他の場所へ行く気もなかった。ずっとエドガーのそばにいたかった。
「分かった。それなら、嫌だろうがしばらくここへいてくれ。あなたが幸せに暮らせるように条件の良い結婚相手を探そう。あなたが心穏やかでいられる、強くて優しい家庭的な男がいいかもしれないな」
「なっ……」
予想外の言葉にアイリーンは言葉を失った。
「どうしてです……? どうしてそんなことをおっしゃるのですか!?」
「あなたには幸せになって欲しいんだ。頼む、分かってくれ」
その声は優しく、アイリーンに向けられる目は愛情にあふれていた。
(どうしてそんなことを言うの……?)
このままではエドガーが離れていってしまう。エドガーと離れ離れで生きることなど、できっこない。それほどまでにアイリーンはエドガーを愛していた。
目を固くつぶって呼吸を整える。
例え拒まれたとしても、溢れるこの気持ちをエドガーに伝えようと心に決める。
「話はこれで終わりだ。妹を……エマを助けてくれて本当にありがとう。それから’あなたを傷付けたことを心から詫びる。申し訳なかった」
隣でエドガーが杖を握ったのに気付いたアイリーンは「嫌です」とハッキリ言った。
目を開けた瞬間、大粒の涙が頬を伝う。