【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
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この日、エドガーは長い時間アイリーンと共に過ごした。というよりかは、一時として離れずにぴたりと寄り添っていたといっても過言ではない。
思い返せばガーデンパーティから今日まで、お互いの気持ちはすれ違い続けていた。小さな誤解が大きな不安の芽となってしまうことをエドガーは実感していた。
二度とアイリーンを不安にさせたりしないと心に誓う。だが、彼は口下手で不器用な人間だ。とくにアイリーンのこととなると途端に余裕をなくしてしまったりする。
アイリーンにはそんな情けない姿を見せたくなかった。虚勢を張っているわけではなく、単純に好きな女性に少しでもカッコよくみられたいという男の心理だ。
(まるで子供のようだな……)
エドガーは自身に呆れかえる。それと同時に、生まれて初めてこんな感情を抱かせてくれたアイリーンに心から感謝するのだった。
夕食を終えて湯浴みをするアイリーンと別れて、エドガーはそのまま自室へは戻らず執務室へ向かった。
本音を言えばまだ一緒にいたかったが、結婚前の女性と一緒に風呂に入るわけにはいかない。
(ちょっと、待て。結婚してしまえば一緒に風呂に入れるのか……?)
エドガーの足がピタリと止まる。食後に一緒に風呂に入り、共にひとつの寝台で眠りにつく。夫婦となれば当然のことだが、考え出すと自制が利かなくなりそうだった。エドガーは執務室の前で一度大きく息を吐きだして気持ちを整え、扉を開けた。
「なんなんですか! あの継母と義妹は!」
執務室へ入るなり、ルシアンがワナワナと唇を震わせてエドガーの前まで歩み寄った。
「礼儀もなにもあったもんじゃありませんよ。しかも、義妹に色目まで使われたんです。勝手に腕を組まれて、豊満な胸を押し当てられて……。その様子をシーナに見られたのです。軽蔑を含んだ瞳で見ていました。エドガー様、私があんな女狐に惑わされる男ではないと、シーナに説明してください!」
エドガーが椅子に座るのも待てず、背後からつらつらと文句をぶつけてくる。エドガーは椅子に座り背もたれに体を預けた。