【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
「お前もあの二人が許せないんだな?」
「当たり前でしょう! 初めて会いましたが、あそこまでひどい性格だとは……。きっとアイリーン様も苦労してきたことでしょう」
「ああ、そうだな。あの二人にはきちんと罪を償わせる。もちろん、アイリーンの許可はとった」
「もちろんそうしたい気持ちは山々ですが、一体どうするおつもりですか?」
「俺に考えがある。証拠が揃うまでは、あえて泳がせておこう。すぐに尻尾を出すはずだ」
「私にもなにか協力させてください。シーナに誤解された恨み、晴らすべし!」

 ルシアンの怒りの矛先は間違ったところへ向かっている気がしたが、そのままにしておこう。

「それで、アイリーン様にすべてお話されたのですか?」
「ああ、俺の気持ちは全て伝えた。あの日、彼女を守れなかった俺に……共に助け合って生きていこうと言ってくれた」

 思い出すだけで心の中が喜びで満たされる。

「エドガー様は命がけでアイリーン様を守られたではありませんか」
「そんなことはない、彼女に傷を負わせてしまった」
「あなたという人は本当に……自分の方が重症だというのに……」

 ルシアンは呆れたような表情で肩を竦めた。

「エドガー様の剣の腕前ならば、敵が四人いたとしても圧勝だったでしょう? なのに、あなたはあの時、彼らを切り殺さなかった。アイリーン様に残酷な場面を見せたくなかったからでしょう?」

 確信を持ったように言うルシアンにエドガーは帰す言葉が見上がらない。長年一緒にいるせいで、エドガーの考えていることはすべてルシアンに筒抜けだった。

「エドガー様の選択は正解です。目の前で人が切り殺されるところを見たら、アイリーン様の心の傷になってしまわれたことでしょう。それに、四人の男達の狙いは最初からお二人だったようですし、全員を殺してしまえば黒幕に辿り着けなくなってしまいますしね」
「ああ。あの男達の言動には最初から違和感を覚えていたんだ。俺たちを襲う様に指示を出した人間がいるはずだ」

 アイリーンの話では、襲ってきた四人の男達の中に、エマを攫いアイリーンの顔に傷を負わせた男がいたのだという。

「早く黒幕を探し出さないと、再びアイリーン様が危険にさらされてしまいます」
「ああ」

エドガーはテーブルの上の写真立てに目を向ける。笑顔のエマが頑張れと応援してくれている気がする。

(任せろ、エマ。お前の恩人……アイリーンのことは俺が必ず守る)

エドガーは両方の拳を固く握りしめた。 

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