【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
第六章
それから十日後、エドガーからアイリーンを迎えに来て欲しいという手紙を受け取った継母とソニアはのこのことサンドリッチ辺境伯爵家へやってきた。
馬車から降りた二人を見たアイリーンは目を疑った。見栄を張る為だろうか。継母とソニアは贅の限りを尽くしたサテンのドレスとダイヤのネックレスを付けて意気揚々と馬車から降りてきた。
クルムド家の手入れのされていない老馬はやせ細っていた。革製のカーテンはところどころ破れ、焦げ茶色の車輪もあちこちが錆びている。自分たちが着飾ることばかり考えて、他のことには一切無頓着なのは今も変わらないようだ。
ルシアンに案内されて、二人は揃って応接間へ通された。
「エドガー様はまもなく参ります。こちらで少々お待ちくださいませ」
事務的なルシアンの態度に、アイリーンは驚いていた。いつもにこやかなルシアンがまるで別人のようだったからだ。顔は能面のように表情がなく、愛想のひとつも振りまこうとしない。その視線は針で刺すように冷たいものだった。
「お待ちください! わたくし、クルムド子爵家のソニアと申します」
ソニアがスカートを指でつまんでも持ち上げて、華麗に挨拶をする。普通の男ならば、可憐なソニアに胸を撃ち抜かれているところだろう。ルシアンはじっとソニアを見つめた。その瞳は虫けらを見るように冷ややかだった。
「あなたのお名前は?」
「この屋敷の執事をしております、ルシアンです」
「ルシアン様ね……! 素敵なお名前ですわ」
ソニアの目はキラキラと輝き、その視線からは明らかな好意が伺えた。
(確かにルシアンは素敵な男性だものね……)
ルシアンはふいっとソニアから顔を背けて、アイリーンに穏やかな笑みを浮かべて部屋を出て行く。
応接間には、アイリーンと継母、それにソニアの三人が残された。
重苦しい時間が流れる。誰もいないのをいいことに、継母とソニアは足を組んで自分の屋敷のようにくつろぐ。
「それにしても、いいお屋敷ね。アイリーン、短期間だったけどいい暮らしができてよかったわね?」
継母はぐるりと部屋の中を見回した後、アイリーンに目を向けた。
「残念だわ。その暮らしも今日で終わりなんてね。だけど、安心なさい。またクルムド家で暮らせなんて酷なことは言わないわ」
「私をどこかへ嫁がせるおつもりですか?」
「さあね? 傷モノのアンタをもらってくれる物好きな男がいたらいいわね」
曖昧な言い方をしているが、その意地悪な笑みが全てを物語っていた。エドガーから多額の慰謝料を奪い取り、アイリーンを連れ帰る。そして、持参金を払わないという約束付きで位の低い男性の元へ嫁がせて厄介払いするつもりなのだろう。
「お母さま! だけど、そうなったらルシアン様との繋がりがなくなってしまうわ! お義姉ならどうなってもいいけど、ルシアン様に会えなくなるのだけは困るわぁ。見た目がタイプなの。あんな素敵な男性との繋がりを失いたくないわぁ」
「どんなに顔が良くても、しょせん執事よ。あなたほどの美女ならもっといい条件の男と結婚できるわ」
「まあ、それはそうねぇ」
ソニアはのんきに長い髪を指にクルクルと巻き付ける。見下した発言をするソニアにアイリーンは重たい口を開いた。
馬車から降りた二人を見たアイリーンは目を疑った。見栄を張る為だろうか。継母とソニアは贅の限りを尽くしたサテンのドレスとダイヤのネックレスを付けて意気揚々と馬車から降りてきた。
クルムド家の手入れのされていない老馬はやせ細っていた。革製のカーテンはところどころ破れ、焦げ茶色の車輪もあちこちが錆びている。自分たちが着飾ることばかり考えて、他のことには一切無頓着なのは今も変わらないようだ。
ルシアンに案内されて、二人は揃って応接間へ通された。
「エドガー様はまもなく参ります。こちらで少々お待ちくださいませ」
事務的なルシアンの態度に、アイリーンは驚いていた。いつもにこやかなルシアンがまるで別人のようだったからだ。顔は能面のように表情がなく、愛想のひとつも振りまこうとしない。その視線は針で刺すように冷たいものだった。
「お待ちください! わたくし、クルムド子爵家のソニアと申します」
ソニアがスカートを指でつまんでも持ち上げて、華麗に挨拶をする。普通の男ならば、可憐なソニアに胸を撃ち抜かれているところだろう。ルシアンはじっとソニアを見つめた。その瞳は虫けらを見るように冷ややかだった。
「あなたのお名前は?」
「この屋敷の執事をしております、ルシアンです」
「ルシアン様ね……! 素敵なお名前ですわ」
ソニアの目はキラキラと輝き、その視線からは明らかな好意が伺えた。
(確かにルシアンは素敵な男性だものね……)
ルシアンはふいっとソニアから顔を背けて、アイリーンに穏やかな笑みを浮かべて部屋を出て行く。
応接間には、アイリーンと継母、それにソニアの三人が残された。
重苦しい時間が流れる。誰もいないのをいいことに、継母とソニアは足を組んで自分の屋敷のようにくつろぐ。
「それにしても、いいお屋敷ね。アイリーン、短期間だったけどいい暮らしができてよかったわね?」
継母はぐるりと部屋の中を見回した後、アイリーンに目を向けた。
「残念だわ。その暮らしも今日で終わりなんてね。だけど、安心なさい。またクルムド家で暮らせなんて酷なことは言わないわ」
「私をどこかへ嫁がせるおつもりですか?」
「さあね? 傷モノのアンタをもらってくれる物好きな男がいたらいいわね」
曖昧な言い方をしているが、その意地悪な笑みが全てを物語っていた。エドガーから多額の慰謝料を奪い取り、アイリーンを連れ帰る。そして、持参金を払わないという約束付きで位の低い男性の元へ嫁がせて厄介払いするつもりなのだろう。
「お母さま! だけど、そうなったらルシアン様との繋がりがなくなってしまうわ! お義姉ならどうなってもいいけど、ルシアン様に会えなくなるのだけは困るわぁ。見た目がタイプなの。あんな素敵な男性との繋がりを失いたくないわぁ」
「どんなに顔が良くても、しょせん執事よ。あなたほどの美女ならもっといい条件の男と結婚できるわ」
「まあ、それはそうねぇ」
ソニアはのんきに長い髪を指にクルクルと巻き付ける。見下した発言をするソニアにアイリーンは重たい口を開いた。