【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
結婚式を終えて大聖堂の外に出る。馬車を目指して歩き出したアイリーンは驚きに目を見開いた。そこには大勢の市民と礼装軍服に身を包んだ屈強な騎士団の面々がいた。
「エドガー様、アイリーン様、ご結婚おめでとうございます!」
ディルの大声を合図に、あちらこちらで祝福の声が飛ぶ。眩しいほどの笑顔で誰よりも大きな拍手を送るディルは、屈強な体に似合わず無邪気な子犬のようだった。
二人が歩き出すと騎士数人が準備していた打ち上げ花火を上げ、馬車までの道を作るように左右に分かれて立っていた市民たちは手籠に入れられた色とりどりの花びらをふわりと舞わせた。
アイリーンとエドガーは目を見合わせて微笑み合った後、揃って歩き出す。サンドリッチ領にやってきたときはこんなにも大勢の人に祝福してもらえるなどとは夢にも思っていなかった。エドガーをはじめ侍女のシーナや執事のルシアン、それに友人のオゼットはもちろん、ここにいるサンドリッチ領の市民や騎士団の人々などアイリーンにとってかけがえのない存在が大勢できた。
「アイリーンしゃま、おめでとごじゃいましゅ」
三歳ほどの女の子がピンク色の花束を持ってアイリーンの元へ歩み寄った。アイリーンは足を止めて彼女の前に腰を落として同じ視線になった。
「素敵なお花ね。どうもありがとう」
「おめめ、へいき?」
少女は眉をへの字にして心配そうな表情を浮かべる。
「ああ、この傷?」
アイリーンはそっと自身の目の傷に触れた。この傷を負ったことで失ったものもある。けれど、あの日にエドガーの妹のエマを助けたことを後悔したことは一度もない。その不思議な縁によってアイリーンは導かれるようにしてエドガーと出会うことができたのだ。
アイリーンはエドガーと出会わせてくれたエマに心から感謝していた。
「心配してくれてありがとう。でも、もう平気よ。この傷は……勇気を出した証なの。だから、今はこの傷を見るたびに誇らしい気持ちになるのよ。って、少し難しかったかしら?」
アイリーンは穏やかに少女に微笑み、そっとふわふわの茶色い髪の毛を撫でつけた。
「あなたは優しい子だわ。これからもずっとその優しさを忘れないでね」
「うん!」
少女はヒラヒラと手を振って母親の元へ駆けていく。
「あなたは素敵な母親になれそうだな」
少女とのやり取りを穏やかに見つめていたエドガーは、ふっと優しく微笑んだ。
結婚式の後は、屋敷で晩餐会が行われた。親しい人だけを呼んだ内輪の集まりの為、気取らない雰囲気で和やかに行われた。
アイリーンは用意されていた水色のドレスを身に着けた。式中はひとめとめにしていた腰まである長い髪を下ろし、ハーフアップにして後ろで緩く編んでいる。後ろ髪にはワンピースと同色の髪飾りを付けている。
「アイリーン、結婚おめでとう。ウエディングドレス姿とっても素敵だったわ。うっかり見惚れてしまったぐらいよ」
晩餐会に参加しているオゼットがアイリーンの元へにこやかな表情で歩み寄った。
彼女は相当酒に強いらしい。並々と注がれた果実酒をゴクゴクと喉を鳴らして飲んでもなお、オゼットは顔色一つ変えない。
「オゼット、今日は来てくれてありがとう。結婚祝いに素敵な髪飾りまで……。すごく嬉しかったわ。大事にするわね」
「早速つけてくれたのね?」
「もちろんよ、大好きなオゼットがくれた物だもの」
アイリーンがつけている髪飾りはオゼットにもらったものだった。水色の絹とレースで作られ、ワンポイントに大きなリボンが着いている。さらに小ぶりの真珠がいくつも装飾されているため、可愛らしくも華やかな印象を受ける。お洒落に敏感そうなオゼットだけあってセンスの良さが際立っていた。
すると、オゼットはなぜか口元をモゴモゴさせた。
「どうしたの?」
「まだわたしのことを友達だと思ってくれているの……?」
「当たり前じゃない。どうして?」
「ガーデンパーティでのことよ……。あなたの義妹を招待したせいで、アイリーンを悲しませることになってしまったでしょ? だから、もうわたしとは口も聞いてくれないんじゃないかと思っていたの」
「それ、どういうこと?」
あの日、オゼットに挨拶もしないで帰ってしまったことを詫びる手紙を書いて送ったけれど、詳しい話はしていない。
「アイリーンから手紙をもらったあと、なんだか胸騒ぎがしたの。それで、少し前にエドを追求して話を聞いたの。エドは『もう解決した話だ。アイリーンはそれぐらいでお前を嫌いになる人ではない』って言っていたけど、やっぱりどうしても直接謝りたくて……」
「いいのよ、オゼットのせいじゃないもの」
イベルトン伯爵家は集まりの度に必ずアイリーンとソニアを招待していた。突然ソニアだけを呼ばなくなるのはあまりにも不自然だ。
「エドガー様、アイリーン様、ご結婚おめでとうございます!」
ディルの大声を合図に、あちらこちらで祝福の声が飛ぶ。眩しいほどの笑顔で誰よりも大きな拍手を送るディルは、屈強な体に似合わず無邪気な子犬のようだった。
二人が歩き出すと騎士数人が準備していた打ち上げ花火を上げ、馬車までの道を作るように左右に分かれて立っていた市民たちは手籠に入れられた色とりどりの花びらをふわりと舞わせた。
アイリーンとエドガーは目を見合わせて微笑み合った後、揃って歩き出す。サンドリッチ領にやってきたときはこんなにも大勢の人に祝福してもらえるなどとは夢にも思っていなかった。エドガーをはじめ侍女のシーナや執事のルシアン、それに友人のオゼットはもちろん、ここにいるサンドリッチ領の市民や騎士団の人々などアイリーンにとってかけがえのない存在が大勢できた。
「アイリーンしゃま、おめでとごじゃいましゅ」
三歳ほどの女の子がピンク色の花束を持ってアイリーンの元へ歩み寄った。アイリーンは足を止めて彼女の前に腰を落として同じ視線になった。
「素敵なお花ね。どうもありがとう」
「おめめ、へいき?」
少女は眉をへの字にして心配そうな表情を浮かべる。
「ああ、この傷?」
アイリーンはそっと自身の目の傷に触れた。この傷を負ったことで失ったものもある。けれど、あの日にエドガーの妹のエマを助けたことを後悔したことは一度もない。その不思議な縁によってアイリーンは導かれるようにしてエドガーと出会うことができたのだ。
アイリーンはエドガーと出会わせてくれたエマに心から感謝していた。
「心配してくれてありがとう。でも、もう平気よ。この傷は……勇気を出した証なの。だから、今はこの傷を見るたびに誇らしい気持ちになるのよ。って、少し難しかったかしら?」
アイリーンは穏やかに少女に微笑み、そっとふわふわの茶色い髪の毛を撫でつけた。
「あなたは優しい子だわ。これからもずっとその優しさを忘れないでね」
「うん!」
少女はヒラヒラと手を振って母親の元へ駆けていく。
「あなたは素敵な母親になれそうだな」
少女とのやり取りを穏やかに見つめていたエドガーは、ふっと優しく微笑んだ。
結婚式の後は、屋敷で晩餐会が行われた。親しい人だけを呼んだ内輪の集まりの為、気取らない雰囲気で和やかに行われた。
アイリーンは用意されていた水色のドレスを身に着けた。式中はひとめとめにしていた腰まである長い髪を下ろし、ハーフアップにして後ろで緩く編んでいる。後ろ髪にはワンピースと同色の髪飾りを付けている。
「アイリーン、結婚おめでとう。ウエディングドレス姿とっても素敵だったわ。うっかり見惚れてしまったぐらいよ」
晩餐会に参加しているオゼットがアイリーンの元へにこやかな表情で歩み寄った。
彼女は相当酒に強いらしい。並々と注がれた果実酒をゴクゴクと喉を鳴らして飲んでもなお、オゼットは顔色一つ変えない。
「オゼット、今日は来てくれてありがとう。結婚祝いに素敵な髪飾りまで……。すごく嬉しかったわ。大事にするわね」
「早速つけてくれたのね?」
「もちろんよ、大好きなオゼットがくれた物だもの」
アイリーンがつけている髪飾りはオゼットにもらったものだった。水色の絹とレースで作られ、ワンポイントに大きなリボンが着いている。さらに小ぶりの真珠がいくつも装飾されているため、可愛らしくも華やかな印象を受ける。お洒落に敏感そうなオゼットだけあってセンスの良さが際立っていた。
すると、オゼットはなぜか口元をモゴモゴさせた。
「どうしたの?」
「まだわたしのことを友達だと思ってくれているの……?」
「当たり前じゃない。どうして?」
「ガーデンパーティでのことよ……。あなたの義妹を招待したせいで、アイリーンを悲しませることになってしまったでしょ? だから、もうわたしとは口も聞いてくれないんじゃないかと思っていたの」
「それ、どういうこと?」
あの日、オゼットに挨拶もしないで帰ってしまったことを詫びる手紙を書いて送ったけれど、詳しい話はしていない。
「アイリーンから手紙をもらったあと、なんだか胸騒ぎがしたの。それで、少し前にエドを追求して話を聞いたの。エドは『もう解決した話だ。アイリーンはそれぐらいでお前を嫌いになる人ではない』って言っていたけど、やっぱりどうしても直接謝りたくて……」
「いいのよ、オゼットのせいじゃないもの」
イベルトン伯爵家は集まりの度に必ずアイリーンとソニアを招待していた。突然ソニアだけを呼ばなくなるのはあまりにも不自然だ。