もう一度、この愛に気づいてくれるなら
王宮前に、婚姻使節団の馬車が止まった。王宮の正面で止まった馬車はブルガンからきた王女の乗る馬車だった。

馬車が開き、花嫁が降り立った。

嘲笑してやろうと集まった貴族らは、まるで人形のような生気のない花嫁に、毒気を抜かれた。

衣装だけは王女らしく豪華なものの、異様に色が白く、痩せっぽちだ。

花嫁は多くの視線に耐えられなくなったかのように、うつむいてしまった。

(突然、一人で外国に嫁がされて可哀相だな。そのうえ、夫となる国王にもそっぽを向かれて)

貴族らは同情を寄せ始めたが、それでも、一部の貴族は、野次を飛ばした。

「挨拶もしないで、うつむいてしまうなんて、礼儀作法も知らないのだな」

「まるで人形にドレスを着せたみたいだ」

「人形というより死体だぞ」

しかし、そう言った人たちは不意に現れた嵐のような存在に、いきなり殴られた。

ゲルハルトだった。

ゲルハルトは次々と花嫁を嘲笑った貴族らを殴っていく。

「妻を侮辱するのは俺が許さん」

怒鳴りながら、花嫁のもとに近づいていく。

ゲルハルトが花嫁の目の前に立ったときには、花嫁は怯え切っていた。

ゲルハルトが声をかけようとすれば、花嫁の体がぐらりと揺れた。ゲルハルトは慌ててその体を支えるも、その顔色がひどく悪く、怯えて歯をがちがちを鳴らしていることに気づいた。

「大丈夫か、あなたはどうしてこんなに震えているのだ」

そう訊いても、花嫁は目に涙を浮かべるばかりで、ゲルハルトの腕のなかで、ごとごとと全身を震わせている。

ゲルハルトの側近が、苦笑しながら答えた。

「陛下が怖いんじゃないっすかね」

「俺のどこが怖いんだ?」

出迎えに間に合うように港から帰ってきたゲルハルトは、無精ひげを蓄え、腰布を巻いただけの、ほぼ裸だった。

「その格好で、人を殴りながら近づいてこられれば、俺だって怖いです」

「殴ってない。小突いただけだ」

振り返れば、ゲルハルトが殴った貴族は痛そうにはするものの、怪我などは負っていない。

ゲルハルトは花嫁を抱え上げた。花嫁は呆れるほどに軽かった。ゲルハルトの腕の中で、花嫁は震えている。

ゲルハルトは、花嫁と目を合わせると、にこっと笑って見せた。花嫁は、それを見て、ついに気を失った。
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