もう一度、この愛に気づいてくれるなら

エレーヌの出産の日が近づいてきた。

エレーヌは次第に落ち着いていく一方で、ゲルハルトはそわそわし始めた。

「どうしよう、アレクス」

ゲルハルトは深刻な顔をアレクスに向けてきた。

(エレーヌさまに何かあったのか)

そう心配するアレクスに、ゲルハルトは思いつめた顔をした。

「エレーヌが痛い思いをするのが可哀相だ。どうすればいいのだ、俺は不安だ、エレーヌが痛い思いをさせるなら、俺が代わりに産みたいくらいだ」

「は、はあ。そっすね」

そのあともくどくどと、どれだけエレーヌが心配かを言ってきた。いい加減、アレクスもゲルハルトのお守に飽きてくるが、エレーヌが出奔したときの、ゲルハルトの落ち込んだ姿を見るよりはずっといい。

さて、エレーヌは、無事出産を迎えた。冬将軍を迎える季節だった。

翌春、王宮に、国王夫妻が戻ってきた。晴れやかにも麗しい姿が再び見られるようになった。二人は、愛し合っているのがひと目でわかるほど、仲睦まじかった。王妃の腕には、これまた麗しい男児が抱えられていた。

王宮に再び明るさが戻った。

カトリーナは、エレーヌに厳しくなってしまう不安など吹き飛び、「まあ! まあ! 赤ちゃんまで一緒に!」とエレーヌの帰還を喜び、マリーは娘に同い年の従弟ができたことを嬉しがった。

ミレイユはエレーヌの無事に安堵するも、幸せそうな二人を見ると、やはり心がざわめくのを覚えたが、それにはいつしか慣れるのを待つほかなかった。
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