もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌは目を覚まし、しばらく、ぼんやりとしていた。

背中を丸めておらず、ゆったりと横になっていることから、馬車ではなくベッドで横になっているのだと気づいた。

(長い夢を見ていたのかしら)

塔のベッドにいるのではないか、そう錯覚した。

塔に住んでいたころ、シーツを洗って塔の屋上で干せば、お日様の匂いに包まれてとても心地が良かった。今、エレーヌが包まれているリネンも同じようにお日様の匂いがしている。

視点が定まってくると、そこは石壁とむき出しの木の板に囲まれた塔の中とは違っているのがわかった。

揺らめいているのは薄いカーテン。それがベッドを囲っている。

(ゆ、夢じゃないんだわ。わたし、ラクアに来て、大勢の人に出迎えられて、それから……)

野蛮な男のことを思い出した。半裸で怒鳴り声を上げながら人を殴っていた。

(あの男、私に襲い掛かってきたわ)

エレーヌにとってはそんな印象だった。

目が合うと、男は笑った。

(人を取って食いそうな笑顔だったわ)

エレーヌは体を起こした。

(あれは何だったのかしら。とにかく、私、助かったんだわ。あの男、今頃、牢屋にでも入れられているのかしら)

《あの男》が国王であり、夫になる人とは、そのときのエレーヌは思ってもいない。

ベッドわきに控えていたらしき侍女が、椅子から飛び上がった。エレーヌが起き上がったことに気づいたらしい。

侍女は何やら声を上げて、近づいてきた。見れば、エレーヌと同じ年の頃で、頬が林檎のように赤い。

「エレーヌさま、######」

何を言われているのかわからず、エレーヌは戸惑った。侍女は自分を指さし、「ハンナ! ハンナ!」と言ってきた。

「あなたは、ハンナというのね?」

そう言えば、満足した顔で、大きくうなずいた。そして、サイドテーブルに、飲み物を置いて、手で「どうぞ」と指し、部屋を飛び出て行った。

エレーヌは室内を見渡した。

(ブルガン王宮の部屋も豪華だったけど、ここも豪華だわ)

家具は優美な曲線を描いており、壁は上品なピンク色で、女性向けに用意された、つまりエレーヌのために用意された部屋であることをうかがわせた。

そのうち、ガチャリとドアが開き、ぞろぞろと男らが部屋に入ってきた。
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