もう一度、この愛に気づいてくれるなら


ひょろりとした眼鏡の男に、侍従と思われる男3人に、騎士姿の男4人の合計7人だ。肖像画の人物は見当たらなかった。

侍従の一人が、眼鏡の男を指して、ブルガン語で言ってきた。通訳のようだった。

「この方は、医者です。気分はどうかと訊いています」

「わ、悪くはありません」

医者は脈を取ると、口の中を開くように言った。

エレーヌは口を開くも、もっと大きく開くように言われ、精一杯開いた。男性らの遠慮ない視線がエレーヌに突き刺さる。

エレーヌは口に棒のようなものを入れられて、喉の奥を覗かれた。

(何だか、いやだわ。こんなに見られるの)

ほぼ母親とだけ過ごしてきたエレーヌは、もともと男性には慣れていない。大勢の男性に観察されるのが恐ろしい。

医者は筒のようなものを取り出すと、背中を向くように言った。エレーヌが大人しく背中を向けると、いきなり衣服がはがされて背中がむき出しになるのを感じた。

エレーヌはいつのまにか、ドレスから簡単な衣服に着替えさせられていた。

思わず逃げようとすると通訳が言う。

「心臓の音を聞くだけですのでじっとしてください」

やむなくじっとする。

(こんな大勢に見られなくちゃいけないのかしら)

やっと診察が終わったと思えば、医者がいろいろなことを聞いてくる。通訳を通じて質問に答える。

『生まれたときの重さは?』

「……さあ」

『誰からも聞いていませんか』

「はい」

『大きな病気をしたことはありますか』

「とくにはありません」

『便は毎日出ていますか?」

「えっ」

(何でそんなことを教えなくちゃいけないの……?)

医者からすれば何かの病気のサインを知るためなのかもしれないが、17歳のエレーヌにとっては恥ずかしくて耐え難いことだった。

医者は気を使ってか、笑顔を向けてくるが、余計にいたたまれない。

「ま、いにち、は、ないです」

『では何日に一回くらい?』

エレーヌは答えられずに黙り込んだ。

医者は答えを諦めたのか、次の質問に進む。

『生理が始まったのは何歳でしたか』

「えっ」

『それと最後の生理と、生理周期とを教えてください。大体で結構です』

医者は笑顔を向けてくる。周囲の男性らの視線も突き刺さってくる。彼らはエレーヌを心配しているだけで他意はないことがわかりながらも、エレーヌは羞恥に耐えられなくなった。

(もういや……っ)

エレーヌは、何も答えられなくなってうつむいた。シーツをぎゅっと握り締める。

そんなエレーヌに同情したのか、男らの後からついてきていたハンナが何かを叫んで、エレーヌをかばうように前に立った。そして、男らに何かを叫んで部屋を出て行った。

しばらくすると、ハンナは貴婦人を連れて戻ってきた。
< 12 / 107 >

この作品をシェア

pagetop