もう一度、この愛に気づいてくれるなら
遡ること三か月。
春の到来とともに、ラクア王国からの婚姻使節団が、ブルガン王国の王都の門をくぐった。
その行列はあまりに長く、先頭は王宮に達しているのに、後尾はまだ王都の入り口にあるというありさまだった。
ブルガン王国の宰相は接待予算が足らなくなるのではないかと心配したが、それは杞憂に終わった。婚姻使節団がブルガン王室に献上した絹や銀器などの品々は、使節団の滞在費用を優に上回っていた。
宰相は、ほっとしたのもつかの間、もっと大きな問題に直面することになった。
第三王女が姿をくらましたのである。第三王女は、婚姻使節団が迎えにきた当の王女だった。
普段は沈着冷静な女官長が慌てふためきながら、宰相のもとへ手紙を持ってきた。第三王女の残した手紙だ。
――探さないでください。
一人の兵士と連絡がつかなかった。第三王女のお気に入りの護衛兵士だった。駆け落ちであることは明らかだった。
宰相は頭を抱え込んでうずくまり、しばらく起き上がることができなかった。
ちょうどその頃。
エレーヌは、王宮の外れにある崩れかけた塔の窓から、王都の街並みを見下ろしていた。自分の運命が大きく変わることなどつゆとも知らずに。