もう一度、この愛に気づいてくれるなら
その日、ハンナがゲルハルトからの贈り物を持って部屋に入って来たタイミングで、エレーヌは、部屋を飛び出た。
(ゲルハルトさまが届けてくださっているのよね?)
廊下を騎士姿の男が去って行く。その背中に呼び掛けた。
「ゲルハルトさまっ!」
エレーヌの声に騎士は振り返った。
「エレーヌさま、#####」
しかし、それはゲルハルトではなかった。どこかハンナに似た面差しの騎士だった。
(贈り物を持ってきてくれているのはゲルハルトさまではなかったの……?)
「エレーヌさま、#####」
騎士はエレーヌの元まで来ると感激したような顔を向けて、エレーヌの足元にひざまずく。
(贈り物を持ってきてくれたのはあなただったの?)
贈り物を届けにきたのがゲルハルトではなかったことを知り、エレーヌは失望した。
「アリガトウ」
エレーヌがラクア語で言えば、騎士は顔を輝かせた。
騎士はハンナとも視線を交わすが、その様子には親密さがある。ゲルハルトの乳兄弟という、ハンナの兄なのかもしれなかった。
エレーヌは、その騎士に笑顔で辞儀を返して、部屋に戻った。
エレーヌは、寝室に入ると、チェストの引き出しに、手にしていたハンカチを投げ入れた。紋章入りのハンカチだった。
ゲルハルトのために作ったものだった。
(何よ、浮かれてハンカチなんか作っちゃって、馬鹿みたい)
ゲルハルトが贈り物を持ってきているものだとばかり思っていたエレーヌは傷ついていた。
(ハンナのお兄さんが気を利かせてやっていたんだわ。何もかも、全部。マカロンだって、そう。ゲルハルトさまは、何もしていなかった……! 私のことなど何も思ってくれてなどいなかった……!)
惨めで惨めで涙が出てきた。