もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌの日々はとても静かに過ぎて行った。
塔にいた頃と同じ、単調な日々だった。
ディミーは息子の具合がずっと悪いのか、ときおりしか現れなかった。その日、やっとディミーが訪れたので、訊いてみた。
「ゲルハルトさまは、ラクア語の教師を見つけてくれたかしら」
「はい、探してくださっていると思います」
ディミーは申し訳なさそうに言う。
「まだ見つからないのかしら」
「おそらく、良い教師を探してくださっているのですわ」
「ブルガン語の本はどうなったのかしら」
「おそらく、取り寄せているのだと思います」
「ラクア語でもブルガン語でも何語でもいいの。とにかく、本を持ってきてもらえない?」
「ゲルハルトさまによく頼んでおきます」
「それと、ハンナは忙しいのかしら。用事が終わればすぐにどこかに行ってしまうのだけど」
「ハンナにもいろいろと他の仕事があるようですわ」
「もう少し、そばにいてもらえないかしら」
「はい、ゲルハルトさまによく頼んでおきます」
ディミーは申し訳なさそうにそう繰り返すばかりだった。ディミーのせいでもないのに、ディミーを責めているようで、エレーヌの方が申し訳なくなってきた。
(忘れられた存在であるのは、ブルガンと同じ。ふふ……)
馬車の中でじっと肖像画に話しかけていた自分。あの頃は、こんな風になるとは思いもしなかった。恐れを抱きながらも、宮廷での生活に確かに想いを馳せていたのだ。夢を見ていたのだ。
(ふふ、惨めね……)
そうして一か月が過ぎたとき、もっと惨めなことが起こった。