もう一度、この愛に気づいてくれるなら
惨めな晩餐会を過ごした夜、エレーヌは早々に床に就いた。もう何も考えたくなかった。

ベッドでうとうとし始めたところへ、ドアの開く音があった。

(ハンナがお水でも取り換えに来てくれたのかしら………?)

しかし、ギシとベッドがきしんで、エレーヌは身をこわばらせた。きしんだ音は到底ハンナの立てた音ではない。もっと大きくて重い体が立てた音だ。

(だ、だれっ……?)

エレーヌはいっぺんに目が覚めた。けれども身動きもできずに、体を強張らせていた。

「エレーヌ」

その声はゲルハルトのものだった。

初夜からずっと、エレーヌは、自分の寝室で寝ている。ゲルハルトも妻の寝室に来ることはなかった。

(どうして、ゲルハルトさまが?)

「エレーヌ」

ゲルハルトは、そのまま、ベッドにあがったらしく、スプリングが揺れる。

(どうしよう、どうすればいいの)

エレーヌはじっと固まっていたが、ゲルハルトはエレーヌの隣に横になったまま、何かをしてくるわけではなさそうだった。

(どうしよう。寝たふりするしかないわ。いびきでもかこうかしら)

エレーヌが必死でいびきをかくふりをしているうちに、ゲルハルトからも寝息が聞こえてきた。

(寝、寝たの……? ここで……? ここ、私のベッドよ?)

エレーヌはスプリングを揺らさないようにゆっくりとベッドの端によって、ゲルハルトから精一杯離れた。そしてじっとしていた。

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