もう一度、この愛に気づいてくれるなら

エレーヌは、夢を見た。

《みすぼらしくて貧相な王女》とあざ笑わってこられるが、あざ笑ってくるのが全員マカロンだったので、少しも怖くはなかった。

目が覚めるとエレーヌはベッドの真ん中で大の字になっていた。

(あのマカロン、食べてやればよかったわ。次に夢に出てきたときには全員、食べてやるんだから)

そのとき、視界の隅で何かがガサッと動いて、跳ね起きる。

(きゃっ、何かいる!)

見ればゲルハルトがベッドの隅で小さくなって眠っていた。

(あら、私がベッドを占領してたのね。でも、このベッドは私のベッドだもの、仕方ないわよね)

ベッドの揺れでゲルハルトも目が覚めたのか、パチッと目を開けた。エレーヌと目が合うと、にこっと笑いかけてきた。

「エレーヌ、オハヨウ」

ゲルハルトはブルガン語で言ってきた。

(何よ、私にラクア語を学ぶのは許してくれないくせに、自分はブルガン語を使うの?)

対抗心が湧いたエレーヌは、知っているラクア語をつなげて言ってみた。

「マカロン、オイシイ。アリガトウ」

ゲルハルトは目を見開き、起き上がった。

「エレーヌ」

ゲルハルトは感激したような目を向けてきて、がばっとエレーヌに抱き着いてきた。

(え、な、なに?)

大きな体に包まれて、エレーヌは身動きができなかった。

ゲルハルトは体を離すと、エレーヌを見つめて言ってきた。

「エレーヌ、ワタシ、ナカヨク」

エレーヌは目を見張った。すべてブルガン語だ。難解だとされるブルガン語をわざわざ習ったのだろうか。

(仲良く? あなたには愛する人がいるんでしょう? 今更、どういうつもり?)

だが、ゲルハルトの顔はからかっているようにも、冗談を言っているように見えなかった。

昨日、《みすぼらしく貧相な王女》と言われたこととの落差に違和感を覚えたが、エレーヌはうなずいていた。

何しろ相手は国王だ。エレーヌの立場はひたすら弱い。

「ええ、では、仲良くしましょう、ゲルハルトさま。私がここを追い出されるまでは優しくしてくれますか?」

全体の意味が伝わらずとも、《仲良く》の言葉を聞き取ったらしいゲルハルトは、黒目に喜びを浮かべて、うんうん、とうなずいた。

「ナカヨク、ナカヨク」

嬉しそうに言う。

そのとき、エレーヌの目に衝撃的なものが飛び込んできた。

シーツがはだければ、ゲルハルトは何も身に着けていなかった。

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