もう一度、この愛に気づいてくれるなら
触り心地の良い体

エレーヌの目の前にゲルハルトの顔があった。エレーヌはゲルハルトにすっぽりと包まれるようにしていた。

(きゃあっ)

エレーヌは叫びそうになるところをかろうじてこらえた。

ゲルハルトからは寝息がしていた。眠っているらしく、エレーヌは、落ち着きを取り戻した。

ゲルハルトの寝顔を眺めた。

(寝てると、少しだけ憎らしくないわ)

髪を触ってみると意外にも柔らかく、触り心地が良かった。

(兎の毛みたいな触りごこちだわ)

塔の中にいたとき、冬の間、兎の毛を縫い合わせたものをかぶって寝ていた。その感触を思い出した。

ゲルハルトはまたガウンを脱いでしまったのか、シーツの下は裸だった。

エレーヌは、胸を眺めた。呼吸に上下している胸は自分の胸とは違って硬そうだった。しかし、触れてみると意外にも柔らかかった。

(見た目よりも柔らかいんだわ)

腕にも触ってみる。そこも柔らかい。しかし、脂肪のようにひんやりとした弾力のない柔らかさとは違っており、温かく弾力のある柔らかさをしている。

胸も肩も腕も自分のものとは全くサイズ感が異なっている。ゲルハルトならエレーヌの胴体など軽く捻りつぶせそうだ。

エレーヌは本能的に怖いと感じてしまう。

昨日は随分と優しかったが、何しろ気まぐれな王様だ。怒らせてしまえばどんなことになるかわからない。

けれども、エレーヌはゲルハルトを触る手を止められなかった。

(寝ているんだもの、平気よね)

ゲルハルトの触り心地への好奇心が勝ってしまう。

頬を触ってみる。

(すべすべして、ここも触り心地が良いわ)

今度はあごを触ってみた。少々ひげがざらつく。

(ここは触り心地が悪いのね)

眉も撫でてみた。

(まあ! ここは一番触り心地が良いわ!)

兎の毛よりも柔らかく、ふわふわしている。

(ゲルハルトさまの眉を縫い集めて掛布を作ったら、さぞかし、ふわふわした掛布ができるわね)

しかし、眉毛でできた掛布を想像してみて、少々気持ち悪くなってしまった。手のやり場を胸に戻す。

(やっぱり、弾力があって温かくて気持ちいいわ)

ぷにぷにと押す。

ふはっと、息の漏れる音がして顔を上げれば、ゲルハルトは目を閉じているが、口元が引き結ばれている。ゲルハルトの腹が揺れている。笑いをこらえているようだった。

(ゲルハルトさま、起きてたのね!)


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