もう一度、この愛に気づいてくれるなら

太后カトリーナは自分の部屋でハンカチを広げて眺めていた。

エレーヌからもらったものだ。刺繍が丁寧に施されている。

(刺繍からは、根気強さと丁寧さは伝わってくるのだけれど)

エレーヌのことを思えば、忌々しさと腹立ちとが込み上げる。

(ブルガンの王女は、本当にいやな娘だこと)

侍女頭からの知らせによれば、エレーヌは、初夜に夫婦の寝室から逃げ出し、その後、ずっと妻の寝室で寝ているという。

部屋からも出てこず、社交にも応じない無礼すぎる王女。

(まだ若く、文化も違うのだからと大目に見てきたけど、晩餐会のときのあの態度。随分と非礼だったわ。腹が立ってしようがないわ)

カトリーナはハンカチに爪を立てた。そして、ビリビリと引き裂こうとしてやめた。

余りに丁寧に施された刺繍を破るのは忍びなかった。

そこへ侍女頭がやってきた。

「一昨晩から、陛下は王妃の寝室にお渡りのようです。昨日は朝食を一緒に食べたらしく、今朝も一緒に食べるようでございますわ」

「夫婦になったのかしら」

「まだのようでございますが、ゲルハルトさまもエレーヌさまも、少しずつ歩み寄られているようでございます」

「あら、そう」

(ゲルハルトもよく頑張るわね、あんな王女のために)

カトリーナは刺繍のハンカチを、丁寧に畳んだ。


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