もう一度、この愛に気づいてくれるなら
王都デート
海に出かけた日の翌朝も、エレーヌは目覚めれば、ゲルハルトの腕の中にすっぽりと包まれていた。
城の外に出たことで疲れて眠り込んでいたいたエレーヌは、ゲルハルトが寝室に入ってきたのにも気づかなかった。
(また、来たのね。愛する人とは喧嘩でもしてるのかしら)
放置されていた一か月、ゲルハルトは愛する人のもとで過ごしていたに違いないと思っていたエレーヌは、そう考えた。
エレーヌはゲルハルトの眉に手を伸ばした。
(うふふ、やはり、触り心地が良いわ)
兎の毛よりも柔らかい。
エレーヌにとって、ゲルハルトはずいぶんと身近な存在になりつつある。
ゲルハルトの態度は、ずいぶんと優しいように思える。エレーヌを喜ばせようとする気持ちであふれていることが見て取れる。
(どうして、私に優しくしてくれるのかしら)
エレーヌはゲルハルトの眉を撫でながら、その顔を見つめた。
(どうしてかしら。この人がいやではなくなってきているわ。それどころか、こうやってそばにいると触りたくなるわ。触り心地が良いもの)
エレーヌは今度はゲルハルトの髪に手を差し入れ、その柔らかい感触を味わい、次に胸、腕を触って弾力を楽しむ。
そして、最後に眉に戻る。
(やっぱり、眉が一番だわ)
ふと、ミレイユの台詞がよみがえる。
――乱暴者で無神経で自分勝手だから、決して心を許しては駄目よ。
(そうよ、心を許してはダメよ、エレーヌ。この人には愛する人がいるんだから)
それに、初夜でも晩餐会でも、優しい顔つきで随分とひどいことを言われた。
《みすぼらしくて貧相な王女》
(思い出したら急に腹が立ってきたわ)
エレーヌは、思わず、ブチッと眉毛を何本かまとめて引き抜いてしまった。ゲルハルトが唸り声を上げた。
(きゃあ、やっちゃったわ!)
ゲルハルトの目がパチッと開いた。黒目に捉えられる。