もう一度、この愛に気づいてくれるなら
朝の陽光が薄いカーテン越しに室内に差し込んでいる。
柔らかい光に包まれて、エレーヌはまどろんでいた。
ベッドの上で温もりを味わっている。
(心地が良いわ、温かくて心地が良い……)
うっすらとエレーヌが目を開けると、その朝も、ゲルハルトの腕にすっぽりと包まれていた。
顔を上げると、ゲルハルトの黒目と目が合った。ゲルハルトは先に目覚めていたらしい。
(ゲルハルトさま………)
エレーヌは思わず涙がこぼれそうになる。口には笑みが浮かんでくるのに、目には涙がたまってくる。
その涙が、愛おしい、という気持ちから来るものだと、エレーヌにはもうわかっていた。
(ゲルハルトさま、温かくて、気持ち良くて、とても満たされる……)
ゲルハルトの胸に頬ずりをして、そして、肌と肌が密着していることを感じ取る。
エレーヌは一糸まとわぬ姿でゲルハルトの腕の中にいた。
昨晩のことを思い出したエレーヌは、ゲルハルトから目を背けた。
ジタバタとゲルハルトの腕から逃れようとするも、しっかりと抱きとめられて逃れられないでいる。
「エレーヌ、カワイイ。トテモ、カワイイ」
ゲルハルトはそう言いながら、エレーヌの頭にキスを落としてくる。
エレーヌはその言葉をもう何度聞いたことか。
夜じゅう、ゲルハルトはエレーヌにそう囁き続けていた。キスをしては囁き、囁いてはキスをしてきた。エレーヌは体の至る所に、ゲルハルトのキスを受けた。
ゲルハルトはそれはそれは優しくエレーヌを扱った。エレーヌが恥ずかしくなるほどに、エレーヌを愛おしんだ。
(私たち、夫婦になったんだわ)
エレーヌが逃げるのを諦めてゲルハルトの腕の中で大人しくなると、ゲルハルトはエレーヌの背中をいたわるように撫でてきた。
「エレーヌ、カワイイ、スキ、タイセツ」
ゲルハルトは、少ない単語だけで、エレーヌへの想いを口にする。
エレーヌの目にまた涙がにじんできた。
(私もゲルハルトさまが好き……)
エレーヌがゲルハルトを見上げると、ゲルハルトも目にうっすらと涙を浮かべて、エレーヌを見つめ返していた。
(ゲルハルトさまも、私が好きなの……?)
ゲルハルトは、何度も「スキ」と言ってきた。
これまでは、一向に胸に響いてこなかった愛の囁き。
しかし、ゲルハルトの目に浮かんだ涙を見れば、エレーヌの胸の隅々へとゲルハルトの「スキ」が広がっていくのを感じた。
(ゲルハルトさまも私が好きなんだわ……、私もよ………)
エレーヌはゲルハルトを見つめた。