もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌは寝室にこもっていた。
――みすぼらしく貧相な王女。
その言葉がエレーヌを苛み続けている。
その言葉を発端に、次から次へとゲルハルトの冷たい言葉が数珠つなぎに蘇ってきた。それらが、押し寄せる。
――あなたを愛することはない。
――俺には他に愛する人がいる。
――いずれ、離婚する。出て行ってほしい。
ゲルハルトは初夜にそんな冷たい言葉を投げつけてきた。晩餐会でも同じだった。
――あなたにはいずれ王宮を出て行ってもらうが、それまでは仲が良い《ふり》をしよう。
――悪く思わないで欲しい。俺の愛する人はあなたと違って、とても魅力的な人なのだから。
ゲルハルトへの愛情を感じている今、それらの言葉は、耳にしたときには思いも寄らなかった威力を持って、エレーヌの心を叩きのめす。
(ゲルハルトさまには愛する人がいた……)
たとえ偽物の王女とはいえ、王妃として迎えた以上、子をなさなければならない。
カトリーナはそれを言いに来たのだ。
国王にとって世継ぎを作るのは何よりも重要だ。
(ゲルハルトさまは国王としての義務を果たしていただけだった。そして、仲の良い《ふり》をしているに過ぎなかった……)
エレーヌは身をよじりながら、そこにたどり着いていた。
(ゲルハルトさまは、とても残酷な人。私に優しくすることがどれだけ残酷なことかも知りはしない。ゲルハルトさまは、そういう人)
――あの男は乱暴者で無神経で自分勝手だから、決して心を許しては駄目よ。
(ミレイユさまが忠告してくださったのに。わたしはもう身も心も許してしまったわ………)
エレーヌはベッドの上で声を殺して涙を流していた。