もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌは豪華なドレスを身に着け、髪を整えられて、きらめくシャンデリアの下に連れ出された。
国王の横にいる王妃は、エレーヌを見ると、それは恐ろしい形相を向けてきた。エレーヌは後ろに飛びのきそうになるのをかろうじてこらえた。
母親がどうしてエレーヌを外に出さなかったのかわかった気がした。おそらくはこの王妃は母親をさんざんにいじめたのだろう。
一方の国王はエレーヌを見ると顔に喜悦を浮かべた。
「おお、見違えたな」
国王は、エレーヌに歩み寄ると、また抱きしめてきた。そして、男を指さして言った。
「これがお前の夫だ」
そこには、袋をひっくり返したような形の帽子をかぶった男がいた。男は帽子を取るとぺこりと挨拶をした。その顔は脂ぎっており、帽子の下には毛の薄くなった頭があった。
「#######」
帽子の男が何を言ったのかわからなかった。意味のない音をがなり立てているだけに聞こえた。
(この人が私の夫になる人なの?)
男は怖そうでもなければ、美男子にも精悍にも見えなかった。21歳には到底見えず、それよりも国王に年が近いように思うが、実際、ほとんど人と接したことがないエレーヌがそう思うだけかもしれなかった。
帽子の男は胸に抱えていた板状のものを側仕えに渡し、エレーヌに近づいてきた。エレーヌは後ずさるも、男はぐいっとエレーヌの手を引っ張った。
男はエレーヌの手の甲に接吻した。いやな感触がしたが、恐ろしくてエレーヌは身動きできなかった。
三日後、エレーヌと帽子の男は大聖堂で結婚式を挙げ、その翌日、ラクア王国に出発することになった。
王宮を出発する前、エレーヌは思い切って国王に声をかけた。
「へ、へいか……! お聞きしたいことがあります」
国王はエレーヌを見た。そして、驚いたように目を丸めたのち、快活に笑った。
「エレーヌ、そなたの声を初めて聴いたぞ! 喋れるのだな! 良い声ではないか、安心したぞ!」
実際、エレーヌは塔を出てからも、お祈りのとき以外、声をほとんど出さなかった。侍女たちもエレーヌは声が出ないと思い込んでいた節があった。
エレーヌは、出発の前に、国王に訊いておかなければならないことが一つだけあった。