もう一度、この愛に気づいてくれるなら
太后カトリーナはソファに座ってため息をついた。エレーヌの部屋から戻ったばかりだ。

(エレーヌの部屋に出向かなければよかったわ)

いら立ちが募っている。

(何も悪いことなんて言ってないのに、俯いて顔を合わせようともしないなんて)

エレーヌとゲルハルトが結婚した当初、エレーヌは部屋にこもりっきりで、カトリーナが部屋に招いても来ないし、貴族が出向いても門前払いで誰とも会おうともしなかった。

ラクア語はおろか、帝国語もわからないから、帝国語の教師をつけようとしても、「勉強は嫌い」との返事があっただけだった。

最近になってやっとゲルハルトと、城下に出向いたり、乗馬をしたり、仲睦まじく過ごしていると聞いて、カトリーナも胸を撫で下ろしたところだった。

そして、ついに、カトリーナにも心を開くことを決めたのか、今朝になって、エレーヌから誘いがあった。

(太后を呼びつけるとは何様かしらね)

カトリーナはそう思わぬでもなかったが、エレーヌからの誘いをむげに断るのも可哀想な気がして、誘いに応じてわざわざエレーヌの部屋に出向いたのだ。

しかし、エレーヌはお茶の用意もしておらず、ソファを勧めることもなかった。

そのうえ、カトリーナが声をかけるたびに、エレーヌの顔はこわばり、ついにはうつむいてしまった。

カトリーナはまるで小動物をいじめているような気になって居心地が悪く、早々に部屋を辞してきた。

(何なのかしら、あの娘は)

カトリーナとしては、もう二度とエレーヌの顔を見たくもなかった。

しかし、このまま、エレーヌの振る舞いを見過ごしているわけにもいかない。何しろ、エレーヌはこの国の王妃なのだ。

(ミレイユならば、王妃にふさわしいのに)

カトリーナはついついそう思ってしまっていた。

< 50 / 107 >

この作品をシェア

pagetop