もう一度、この愛に気づいてくれるなら
カトリーナの部屋にやってきたミレイユは、黒衣の裾を優雅に揺らして、ソファに座った。
カトリーナにとってミレイユは亡くなった息子の妻である。黒衣は息子の死を表すものでもあり、ミレイユの息子への哀惜の表れでもあった。
そのため、カトリーナはミレイユの黒衣を見るたびに、悲しみと慰めを同時に抱いた。
生家の公爵家に戻り、もう一度再婚しても良いものを、王宮を去らず、カトリーナの良き相談相手を続けてくれている。
二日に一度はこうしてカトリーナの部屋に出向いて機嫌をうかがいに来るところもカトリーナは気に入っている。
(ゲルハルトの嫁とは大違いね)
カトリーナはエレーヌを思い出して、また、ムカムカとしてくる。
ミレイユはそんなカトリーナに気遣うような声をかけてきた。
「お義母さま、ご気分がすぐれないようですわね」
「ねえ、ミレイユ。エレーヌのことだけど」
当初からミレイユはエレーヌを心配し、気を配っているようだった。
婚姻使節団の団長であるヴァロア公爵は、ミレイユの兄でもある。そのことでエレーヌに責任感を抱いているのもあるのだろう。
ゲルハルトにも、カトリーナにも、異国から来た引っ込み思案な王女に無理をさせてはいけないと、アドバイスをしてきた。
そのためにエレーヌをそっと見守ってきたが、ゲルハルトとの仲も進展しているようだし、そろそろエレーヌにも王妃としての自覚を持ってほしいところだ。
「エレーヌに、いつまでも外国の王女様の気分でいてもらっては困るわ。ゲルハルトはあの子を甘やかしすぎなのよ」
「ゲルハルトもエレーヌも、まだまだ若いんですし、大目に見てあげてくださいな」
「まったく、ブルガンの国王は何を考えてあんな子を寄越したのかしら。帝国語もわからないなんて」
「そろそろ帝国語を学ばせるのはどうでしょうか」
「でも、嫌がりそうだわ」
厳しい姑と思われたくはない。
「では、私からエレーヌに言ってみましょう。それに、マリーにも頼んでおきますわ。マリーは年も近いし、エレーヌの良い話相手にもなります。マリーと帝国語で話しているうちに、帝国語も上達しますわ」
「マリーはちょっと我がままなところがあるからどうかしら」
カトリーナは少しばかり顔をしかめた。
ミレイユは弾んだ声を出す。
「そんなことはありませんわ。マリーはとても気立てが良い方ですわ」
カトリーヌはその言葉に不服そうな顔をするも、終いには納得していた。