もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌは、午前中、エヴァンズ夫人の授業を受けることになった。
エヴァンズ夫人の授業はとても分かりやすかった。
ゲルハルトは、エレーヌの授業の間、執務を済ませてくることになった。
午後、エレーヌの部屋に現れたゲルハルトにエレーヌは帝国語で言ってみた。
『ゲルハルトさま、ごきげんよう』
ゲルハルトは嬉しそうな顔で帝国語で返してきた。
『エレーヌ、ごきげんよう』
そして、ブルガン語で言ってくる。
「エレーヌ、帝国語、うれしい」
エレーヌは首を傾げた。
(ゲルハルトさまは、ラクア語は学ばせてくれなかったのに、帝国語を学ぶのは喜んでくださるのね?)
「わたし、ゲルハルトさまと、帝国語でも話したいの」
ゲルハルトはますます嬉しそうな顔になった。エレーヌは付け加えてみた。
「わたし、ラクア語も学びたいわ。ラクア、まなぶ、したい」
「ラクア?」
ゲルハルトは目を見開いて、意外そうな顔をしていたが、すぐに嬉しそうな顔になった。
「ラクア、わたし、うれしい」
エレーヌはあっさりと了承されたことに、肩透かしを食らった。
(あれほどダメと言ってたのに)
「では、ハンナにもっと私のそばにいさせてくださいませ。ハンナからもラクア語を学べるわ。ハンナはきっと私の良い話相手になってくれると思うの」
「……?」
エレーヌはゲルハルトにもわかるようにゆっくりと言い直した。
「ハンナ、もっと、わたしといっしょ」
ゲルハルトはまた目を見張った。そして、うなずいた。
「わかった」
ゲルハルトは早速、呼び鈴を鳴らした。ハンナが侍女部屋から顔を出した。
ゲルハルトがハンナに何かを言いつけると、ハンナはパッと顔を輝かせた。
「エレーヌさま」
ハンナはエレーヌに抱き着いてきた。それはハンナがもっとエレーヌのそばにいたがっていたことを示すようでエレーヌはほっとした。
それからは、ハンナは侍女部屋にこもることもなく、ラクアに来た最初の頃のように、常にエレーヌのそばにいるようになった。
(ハンナは仕事で忙しいはずだったのに)
エレーヌは首を傾げたが、状況が良くなったことをひたすら喜んだ。